台北市の中心部に「林森北路（リンセンペイルー）」という路地を含んだ小さな街がある。典型的な「スナック街」で、台湾に住む日本人はこのエリアを「リンセン」と呼ぶ。福岡では「中洲」のイメージに近いが、派手なネオンはなく、ひっそりとした路地に、紫色やピンクのスナックの看板が並んでいる。客の呼び込みはほとんどなく、付近を歩いていると、自転車にのった初老の男性、女性が、そういう目的で声を掛けてくる程度だ。

　リンセンは、日本語の看板がほとんどだ。客は「在台湾の日本人」が多くを占める。金を出し女性を隣に座らせ話しながら飲むという、いわゆる『スナック文化』は、日本人特有のものである。日本語の話せる台湾人女性がママとして立ち、日本語学校や大学で日本語を専攻している台湾人女性が従業員やアルバイトとして勤務している。台湾人客は時折いるが、多くが「日本人訪問客を接待するときに使う」ための下見だそうだ。これらがリンセンのスナックの主な成り立ちだ。

　リンセンには、一般人でも入れる多くの「日本料理居酒屋」がある。「訳あり」の日本人男性が「店主」をしているケースが少なくない。ある店主Ａさんは「大手電機メーカーの社員として台北に赴任、日本で結婚しているにもかかわらず、台湾人女性と出会い同棲。会社から『台湾赴任終了。日本へ転勤』という指令が出たが、会社を辞め台湾に残ることを決意。日本の妻とは離婚し、台湾女性と居酒屋を開業した」という経歴の持ち主だ。日本人では登記が難しいため、台湾人女性を名義上の「経営者」としている。台湾赴任中に不倫し、そのまま居つくというパターンは、実は結構多いという。

　台湾に住んで以降、人が変わったように『金』『金』と言い出すケースもあるという。台湾は『拝金主義』の傾向があり、日本人もこの環境に浸かることで、これまで良好な関係を築いてきたのに、急に金を請求してきたり、顔見知りでも金をつり上げたりする場合もある。「メールで人を紹介してもらっただけなのに、取り決めのなかった『紹介料』を急に請求されたり、『紹介料』を払わなかったことでイヤミを言われ続けたりした」というケースもある。台湾の魅力が盛んに取り上げられることで、台湾に生活拠点を移す日本人も増えているが、「台湾は良いところ」というキレイごとでは済まない部分も多いようだ。

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