まず、「団地マネージャー」という肩書を新設した。彼らの指導の下、ほとんど使われていない「集会所」を改築し、一部を団地住民に開放した。自治会や任意団体などから責任者(リーダー)を選び、自主運営を委託したのである。これは画期的なこととして評価したい。これまでのURは、徹底した上意下達を死守してきた。「決まりなので」を常套句に、何でも一方通行を押し付けてきた。とくに自治会の発足には神経をとがらせ、潰しにかかってきたという古い体質を堅持してきた。今、それが足元から揺らぎ始めている。「空き室(空き店舗)が埋まらない」という決定的な理由で。
昨年の今頃、その余波が私のところにまで押し寄せてきた。「裏にあるURの空き店舗を利用して地域コミュニティ・サロンを開設しませんか」との依頼が団地マネージャー氏からあった。「サロン幸福亭」の誕生につながる。
問題は内装工事費と維持運営費だ。前者はURと国(地域サロン整備事業費)、それに私の持ち出しで賄った。後者は、社会福祉協議会の「地域福祉活動助成事業費」と「市民ファンド」(基金・寄付)等で賄うつもりにしている。また、運動共鳴者から、「サロン幸福亭を支える会」の提案があり、検討中である。
この場所で何をするか。まず、誰もが利用できる「居場所」である。そのためには、毎日開けておくことが重要である。問題は、いかにして多くのフロアスタッフを集めるかだ。これは時間をかけ、「サロン幸福亭」のコンセプトを理解していただく以外にない。利用者の大半が高齢者であることを考慮して、高齢者に必要な生活情報を集め提供する。このなかには、行政の提供するセーフティネットから社会保障制度(生活保護を含む)、近隣の病院の情報までを網羅したい。さらに、有料の貸室として開放し、各自が責任者となり趣味の会や勉強会、囲碁教室、パソコン教室、果ては誕生会から葬祭場として利用してほしいと考えている。
私自身も、ここで「高齢者問題研究会」(通称「高問研」)を発足させ、高齢者に関する数多くの問題、といっても世界や国を視野に入れた大きな見方ではなく、あくまでも地域という限られたエリアにある特殊な(決して特殊ではないのだが)問題に関して検討し、それを行政に反映させていこうと考えている。世界や日本から地域を見直すのではなく、地域から日本や世界を見据え、発言していくという考え方だ。このなかに「まちづくりセンター」が依然として放置したままの、「この地域をいかに造り替えていくか」の問題に取り組んでいくつもりだ。
まず、3年前に東京都中野区で実行された条例「地域支えあい推進条例」をこの市でも条例化し、即実行に移してほしいと考えている。この条例は、増え続ける高齢者、それにともなう孤立者の早期発見や孤独死予防のため、名前、年齢、性別、住所などを町内会や自治会などに提供して高齢者を見守るという画期的な条例である。「地域の中で高齢者を見守っていただき、行政が支える」「穏やかなおせっかい」(朝日新聞 平成24年5月30日)という区長の英断である。私はこれを「中野方式」と呼ぶ。「中野方式」は足立区でも条例化され、大きな成果を挙げている。
問題もある。情報を提供される側が、それに応えられるだけの成熟した町内会や自治会であることが条件となる。未熟な町内会や自治会に個人情報を提供すれば、たちまちのうちに個人情報は流出するだろう。もっとも、名簿不正使用者には30万円以下の罰金が科せられる。そのため、すべての町内会や自治会がこの条例の対象とはなっていない。また、そこに住む住民の意識の高さも重要だ。「見守る側、見守られる側」が共有する「意識の担保」のようなものも必要とされるだろう。かつて存在した「頼母子講」のような地域(仲間)で支え合う共同体意識だ。
「中野方式」を条例化して実行に移していただくことが「高齢者問題研究会」の初仕事と思っている。山積する高齢者問題を、足元から解決していく。これがかつて平凡社新書の担当編集者から言われた「地域のジャーナリスト」の仕事なのかもしれないと密かに自負している。
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。
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