ウクライナ問題は、今のところ軍事衝突の最悪の危機を免れているが、もう1つの危機が静かに進行中だ。
ロシアのクリミア半島編入に対し、米・EU・日本など国際社会が経済制裁で断固とした態度をとり、ロシアの孤立が深まっている。ハーグで開かれた先進7カ国(G7)首脳会議で、ロシア排除を決め、G8(先進8カ国)は消滅した。冷戦終結以来最大の国際緊張の高まりのなか、ロシアがウクライナに侵攻するかどうかが当面の危機なのは間違いない。
国際社会が恐れている危機は、ウクライナへの侵攻とは別にもある。
3月25日閉幕した「核安全サミット」で、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は、ウクライナ情勢をめぐり、「世界の核不拡散体制に深刻な影響をもたらす」と懸念を述べたと報じられている。国際社会が恐れ、静かに進行している危機は、"核問題"だ。
ハーグで開かれていた「核安全サミット」では、日本が東海村(茨城県)の「日本原子力研究開発機構」が保有する高濃縮ウランとプルトニウムの全量を米国に返還する合意や、高濃縮ウランやプルトニウム保有量の削減などを要請した共同声明が大きく報じられた。核兵器に転用可能な核物質がテロリストなどの手に渡れば、国際平和が揺らぐからだ。
しかし、表舞台に華々しく報じられなかったが、国連事務総長の演説が示す通り、直面している危機はウクライナ問題だった。
ウクライナは、旧ソ連時代、核兵器が配備され、独立してから核兵器の廃棄後、今も核開発・研究の一大拠点となっている。ウラン産出量世界トップテンに名を連ね、原子力発電所も15基ある。外務省の資料などによると、核兵器廃棄後、非核保有国として核兵器不拡散条約(NPT)に加盟。1990年の主権宣言で「将来において軍事ブロックに属さない中立国となり、核兵器を使用せず、生産せず、保有しないという非核三原則を堅持する国家」となることを明らかにするとともに、ウクライナ軍の主たる任務を「国家防衛」として、西側諸国とロシアの間で中立の立場を保つことにより、国防を維持しようとした。ところが、今回、ロシアのクリミア半島侵攻・編入を西側諸国は防ぐことができなかった。
ウクライナ国内で自国の核技術力を活かして「自衛のための核再武装」を求める意見が台頭し、NPT脱退まで模索している。
今のところ、NPT体制が機能しているため、ウクライナが兵器に転用可能なプルトニウムなどを手にする可能性は少ないと言える。とはいえ、人類を破滅させる核兵器保有国が軍事緊張地域に生まれるかもしれない。核安全サミットの記念撮影で各国の指導者らは笑顔の下に、その恐怖を隠していたのだろうか。
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