<ともに腹黒い米露のウクライナ政変への関与>
今回の政変では、プーチン・ロシア大統領ばかりが非難されている。ここでは書かないが去年秋に発生した抗議集会が最終的にヤヌコビッチ政権崩壊に至るまでには、米国務省が深く関与している。この事実は、主流派ではない欧米メディアで多く報道されている。
とくにオバマ政権の欧州担当の国務次官補であるヴィクトリア・ヌーランド女史は、実際にウクライナの次期首相を誰にするかにまでに口出ししていたことが、ロシアやウクライナの諜報機関によって傍受された電話記録によって証拠付きで暴露されている。
それ以外にもタカ派で知られるジョン・マケイン上院議員も政変が本格化する前に、ウクライナに出向き、ヤヌコビッチ政権崩壊のきっかけになる暴動を引き起こしたとされるウクライナ国内のネオナチ政党スヴォボダの党首や新政権の暫定首相に就任した政治家ヤツェニュクとも面会している。
ヤツェニュク首相は、ヤヌコビッチの政敵であるユリア・ティモシェンコ元首相が設立した政党の幹部であり、39歳の若さながら外相、経済大臣、中央銀行総裁と信じられないほどの重要ポストを歴任した政治家だ。周到に欧米社会から育てられていたのだろう。ギリシャでもそうだったが、金融・経済危機に直面した欧州の国では、経済構造改革を実現するための若い政治家が突如として登場する。
イタリアの前首相のエンリコ・レッタがその一例で欧米有力政財界人が集うビルダーバーグ会議のメンバーだった。今回のヤツェニュク首相といえば、例の2011年に話題になったWikiLeaksの流出公電のなかで「近年で最も興味深い政治家」として08年の段階でブッシュ前政権のコンドリーザ・ライス国務長官宛に報告されている。要するに、米国は世界各国で政変が起きた時に登板させる政治家候補を用意しているのだ。それは日本の実情を見ればよくわかることだろう。
政権崩壊直前には、ヤヌコビッチと反対派は妥協が成立しかけていたのに、抗議集会が行なわれている広場で銃撃事件が起きたために一気に情勢は政権転覆へと向かった。この銃撃事件では政権側ではなく「反政権側」が抗議活動をやっている若者たちを大量殺害したらしいことが、アシュトン欧州連合外務・安全保障政策上級代表とエストニアの外交官の間の通話傍受音声の流出で明るみに出ている。この「自作自演」の銃撃事件に関わっていたのが、いま述べたネオナチ政党やそれと関係の深い右派セクターという政治団体だったと言われている。だから、ウクライナの政変はソチ・オリンピック開催前からアメリカの主にネオコン派らによって周到に準備されていたようなのだ。
だから反米民族主義を半ば国内政権基盤強化につかってきたプーチン大統領はこれに対抗せざるを得なかった。ただ、米国にそのような政治工作を決断させた、プーチン大統領も悪賢さでは米国と似たり寄ったりだともいえる。
なぜならロシアは米国に次ぐ世界第2位の武器輸出国であるからだ。アラブの春の影にもロシアの姿が見え隠れする。ロシアにとっての主要産業は製造業ではなく資源輸出である。ロシアはドル建ての資源価格が上がり続けなければ、国内の福祉政策にも産業政策にも回す資金がなくなる。米金融政策の転換の影響で新興国から資金が逃げ出している。一方、ロシアはなかなか財政赤字を解消できない。それに加えて、今回のクリミア危機。ロシアは資源輸出で獲得した外貨を通貨ルーブルの防衛に使わなくてはならなっている。
今回、米国、EU、日本のG7各国はクリミアを併合したロシアに対して経済制裁を行なった。現段階ではロシア政府高官へのビザ発給停止や、プーチン周辺の富豪への経済制裁にとどまっているが、これがロシアのエネルギー産業の屋台骨を揺るがすようなことになれば、かなり深刻となる。
そのような事態は果たして訪れるのか? ロシア・ウクライナ情勢は、結局のところ、資源国ロシアと新たにシェールガス輸出で資源国にのし上がろうとする意欲を見せる米国の間の「資源戦争」に他ならない。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
※記事へのご意見はこちら