<(1)需要は官需>
中国国家経営の指揮命令の伝達光景は2000年間、変わらない。習近平『中国皇帝』が緊縮令を出すと、全国津々浦々、どの役所も官費接待が自粛される。昨年末、上海の高級レストラン、5つ星のホテルは、売上の落ち込みが激しく閉口したそうだ。上海蟹はさっぱり注文がなかったとか。高級料理、特急酒の老酒もさっぱりオーダーがないので、店の売上の伸びが期待できない。官々接待も皆無となったそうだ。
「役人が金を落とさないと、我々は商売をやっていけない」と、習皇帝に対する恨み節が高まり始めたとか。
まさしく中国の消費需要は、官需が引っ張っているとも言える。単純に綱紀粛正を貫徹すると、商売人の恨みが講じることになる。また、役人たちの士気も停滞をもたらすようだ。「接待交際費が使えなくて、何が公務員だ。飲み食いができてこそ、我々は熱意を持って仕事に励むのだ」と嘯いているとか。習皇帝でもバランス感覚を持って綱紀粛正・経済政策を遂行しないと、予測できないとばっちりを受ける事態になる可能性もある。
友人が中国のある自治体に招待された。飛行機が1時間遅れたため、市長に「1時間遅れるから宴会を始めていてください」と連絡したそうな。
それから1時間遅れて会場に到着したのだが、驚いたことに市長以下幹部たちは、食事せずに待っていた。「以前であれば、宴会はたけなわになっていただろう」と友人は語る。
要は、接待宴会の費用捻出には、大義名分が必要なのである。主賓が出席しないことには、宴会をスタートできないのだ。もちろん、無理に開始できないことはない。しかし、後で触れるが、他人様の垂れ込みが怖いのである。友人の解説には、うなずかされることばかりだ。
<(2)賄賂はフェイスTOフェイス>
上海の知人の証言を紹介しよう。綱紀粛正の命令が徹底されるまでは、中国役人の賄路も長閑なものであった。賄路といっても、年末、正月のツケ届けである。少なくとも3年前までの年末歳暮は大らかであった。歳暮代わりに1人1万円として、5人の職場に5万円を包んだ。受け取る担当者は悪びれた様子もなく、「ありがとう」とささやいて受け取って帰る。職場の仲間と楽しく分け合うのであろう。
ところが、だ。2年前から事態が一転した。「また年末の恒例のお歳暮の時期になりました。同僚の方々、何人分準備すればいいのでしょう」と問い合わせた。だが、「いやー、もらうわけにはいかない」と、電話での拒絶の声である。これにはビックリ仰天。「いやー、ぜひ会って相談したい」と頼み込んだ。するとこの役人は、「では1対1で会おう」と解決案を提示してきた。ある喫茶店で、目撃されないように秘密裏に会った。渡した分は1人分だけである。
恐らく3年前までは、職場ではお互い自慢話に花を咲かせていたのであろう。だが、一転して職場内の雰囲気が閉鎖的になった。冗談にも、話題にする雰囲気がなくなったそうだ。全員が懸念するのは、周囲の"チクリ"である。あまり気前の良い話をすると、誰からか垂れ込まれる危険があるからだ。賄路を汚職として摘発される人たちの大半に共通して言えることは、回りから垂れこまれたということだ。
歳暮のツケ届けくらいは緩やかにした方が、賢明のような気がする。
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