ウクライナ危機の影で開かれた日米韓首脳会談。その裏でハーグでのG7緊急サミットに出席した安倍首相は、ウクライナに当初言われていたよりも多めの1,500億円=15億ドルの支援を表明した。
ここまでくれば、安倍首相がアメリカに対して靖国参拝でかけた迷惑料を、ウクライナ支援への全面協力というかたちで果たした、ということがわかる。
キャロライン・ケネディが沈黙を破って官邸にやって来たのは、靖国参拝が米に与えた迷惑料の請求のためである。それがウクライナ危機への協力と韓国との手打ち、そのための河野談話見直しへの反対を正式に表明するという条件だった。
アメリカにおける慰安婦像をめぐる騒動も、日本が、よせばいいのにばかみたいに騒いだおかげで、アメリカにとって利用しやすくなったと言えるだろう。
キャロライン大使によるイルカ漁を批判するツイート。これにネット右翼が米大使館のフェイスブックによせばいいのに感情的なアホな抗議をしていた。米特命全権大使のツイートには些細なものにもかならず意味がある。
つまり、あの「イルカツイート」は狙ってわざとやったものだ、ということである。「姫」であるキャロライン・ケネディ大使に迷惑をかけたら、そのお詫びが必要だ。それが、ウクライナ問題におけるアメリカ支援だったのだろう。それ以外にも、いろいろな対米譲歩を迫られることになりそうだ。
たとえば、今、国家戦略特区の問題が世間を騒がせているが、少し前に1月28日の読売新聞に、「米軍基地跡地に日米共同の新薬拠点を設置する」という報道もあった。アメリカはしたたかだから、基地を手放すときは必ず代わりに何かを求める。
そのように、日本が愛国心の発露とばかりに靖国参拝とか尖閣問題とか、国民の生活に対して大して関わりのないことで、政治家と世論が暴走すればするだけ、あとで官僚がアメリカに迷惑料や仲介手数料として支払う金額が増える。
かつて、日露戦争でポーツマス条約という講和条約の締結を仲介した米国から、その直後に日本がロシアから獲得した満州鉄道を共同経営しようという提案が鉄道王ハリマンを通じてもたらされた。これを当時の小村寿太郎外相が断ったことで、日米関係が悪化してしまった。
仲介の労をとったアメリカに対して、日本は仲介手数料支払いを拒否したことになる。それで対日政策が硬化していき、その結果が太平洋戦争につながっている。外交は貸し借りの関係であり、安倍首相は靖国参拝で作らなくてもいい「貸し」をアメリカに作ってしまったのだ。
保守を名乗る人が、本当の愛国者なら、そういう歴史の裏側ももっと理解したうえで行動した方がいい。
尖閣問題にしても、実際に戦闘行為にならないように寸止めでストップするという風に、すべて事前に仕組まれている。そのあたりは中国とも話が付いているだろう。米中がヤラセで東アジアの冷戦を演出する。核兵器を持つ国同士が戦争はできないからだ。ただ、小規模な軍事衝突くらいは演出するかもしれない。私が尖閣諸島のような無人の島で日中が争うのは不毛だと思う。それは前述したような理由からだ。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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