それはさておき、米国の「オフショアバランシング戦略」の話に戻る。
アメリカとしては、中国とは直に対峙したくない。だから、その役目として同盟国を使う。具体的には、同盟国に対中国の防波堤になってもらう。そのために、同盟国に防衛支出を増やさせると同時に、同盟協力の阻害要因になっている憲法上の成約を除去させる。
これらの戦略は、ジャパン・ハンドラーズのリチャード・アーミテージ元国務副長官らが出した三度に渡るアーミテージレポートでも書かれており、何ら秘密ではない。実際、集団的自衛権の問題や武器輸出三原則の撤廃の流れを見ればわかるように、これは日米共同開発とか日米共同対処の話になっている。
アメリカとしては、米国のリバランス(防衛コストをこれまで米国が負担していた文を同盟国に押し付ける)のために必要な戦略を取る。これは同盟国の国内対策でも同じだ。
民主党政権時代には、ジョゼフ・ナイ元国防次官補やマイケル・グリーン元NSCアジア上級部長が超党派で「反米」認定した、鳩山由紀夫元首相や小沢一郎民主党元代表らのようなリベラル勢力を殲滅する必要があった。マイケル・グリーンは、2012年の総選挙直前に『東洋経済』へのインタビューで、12年暮れの総選挙では「リベラル勢力が一掃される」と予言めいた発言を残している。実際、その通りになった。
しかし、リベラルの側の厄介事を一掃したアメリカには、今度は右翼民族派の反米派が立ちはだかる。それが、石原慎太郎元都知事や田母神俊雄氏らの、日本原理主義派のナショナリストたちだ。彼らのような反米・反中派をうまく焚き付け、ちょうどいいところで潰す。これがアメリカの自民党安倍政権下における、対日政治工作の目標になった。
米大使館には大使、首席公使の下に、政治担当公使というポストがある。このポストには、野田政権まではロバート・ルークという人物がついていた。ともかく、カート・トン首席公使と政治担当公使(大使館のPolitical-Military Affairs Unitに所属している)が日本政界の情報工作をする係だ。
安倍政権には、さまざまな勢力が入り込んでいる。(1)石原慎太郎に共感するような右翼体質の政治家(ここには原発推進派も含まれている)、(2)竹中平蔵に近く、規制緩和で日本をアメリカに売り渡すと批判されているグローバリスト、それから(3)宏池会のような「官僚派」のリベラル勢力がいる。しかし、田中角栄や小沢一郎が体現した、(あえて言う)リベラル派の党人派はいなくなってしまった。
なお、角栄失脚がアメリカの戦略だったことはすでによく知られているし、また、小沢一郎を葬り去ったのは、アメリカと日本の外務官僚、法務官僚たちの合作だったことは、すでにウィキリークスの外交公電などの公式な文書からも明らかになっている(拙著『日本再占領』参照)。
だから、衛藤晟一首相補佐官や萩生田光一自民党総裁補佐、本田悦朗内閣官房参与のような右翼がかったナショナリストの問題を意図的に表面化させ、それに対抗するための野党勢力をつくり、牽制させようとする。
だから、アメリカにとって日本が、どうしても「二大政党制」でなければならない。管理する対象(=政党)があまりにも多いと、そのなかに本当に国民の利益を考える政治家が出てきてしまって、アメリカがつくり出そうとする対立構造を国民に暴いてしまうからだ。
多様な意見を封じ込めた結果、管理する対象が2つしかないことはアメリカにとって非常に都合が良いのだ。日本には第三党として宗教を支持母体にするリベラル派の公明党が存在するが、この公明党にも知米派はたくさんいる。だから私は、二大政党制や衆議院の小選挙区制には批判的である。
アメリカが、安倍に近い右翼体質の政治家を封じるためにはどうするか。アメリカに逆らわない「リベラル」な政党を必要とする。そのための二大政党制である。
そのために「健全な野党」を次につくり出そうとする。これがアメリカの政治工作の次の一手だ。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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