じつは「おもてなし」がなっていない日本のホテル（桐山秀樹著・PHP新書）

＜当店は手搾りのフレッシュでございます＞
　日本のホテル、とくに最高級に位置づけられるホテルが今、「劣化」し続けている。このことを象徴するできごとが、昨年秋に連続して起こった、高級ホテルチェーンのレストランにおける「食材偽装」問題である。日本ホテル協会に加盟する242のホテルの約３分の１に当たる84ホテルが虚偽表示を行なっていたことが判明。そして、安全、安心、上質を謳う最高級ホテルが、そのなかに数多く含まれていたのである。

　世界最高級のホテルブランド「ザ・リッツ・カールトン大阪」（阪神ホテルシステムズ運営）では、「生搾りのフレッシュジュース」と称し、７年間冷凍ジュースを出し続けていた。
　驚愕すべきは、「当店は手搾りのフレッシュでございます」と答えていた配膳担当者が、自らパック入りの冷凍ジュースをグラスに注いでいた事実だ。

＜どのホテルでもやっていることですよ＞
　著者桐山秀樹氏はノンフィクション作家で、ホテル、旅行、航空等サービス産業を舞台にしたホスピタリティの研究を手がけている。30年以上、ホテルを愛し、世界中のホテルを利用し続けてきた。こんな状態で、６年後に迫った東京オリンピックで、世界各国の観光客を受け入れることができるのか。観光立国たり得るのか。日本のホテルは、根底から生まれ変わらなければならないという思いで、この本を書いている。

　桐山氏は、「食材偽装」問題が発覚したとき、多くの高級シティホテル関係者を取材している。しかし、その感想は「食材偽装と言っても、どのホテルでもやっていることですよ」とか「実際に食べてみると、味の違いなんてほとんどわかりません」と信じられないものであった。

＜ホテルを評価する「客観的基準」がない＞
　それだけに文中には、「ホテルのようなもの」「きわめて悪質なサギ行為」「中身の質はどうでもいい、客を騙してでも儲かりさえすればいい」「高級ホテルのレストラン＝高級レストランという幻想」「消費者が気づかない小さなところで、大きな嘘をつく」「高級ホテルのレストランは割高なぶんファミレス以下」「ホテルの10％サービス料はぼったくり」「総支配人はお飾り（鉄道系に多い）」等と辛らつな言葉が並び、「最も大きな嘘は"最高級ホテル"というブランド」であるとしている。

　その理由は、日本は先進国では珍しく「ホテルを評価する客観的基準」が何もないのである。仏、英、米はもちろん、韓国や台湾にも客観的判断基準がある。日本で「最高級ホテル」とはホテル側が勝手に言っているに過ぎない。その唯一の基準は、ホテル側が勝手に発表している正規宿泊料金の高い順である。

＜2014年から外資系ホテル進出が本格化＞
　著者は東京オリンピック開催が決定した今、日本のホテルはまず、この現実を直視することから始めるべきだと説く。それは、2013年12月の東京マリオットホテル（品川）開業を皮切りに、2014年から外資系ホテル（「アンダーズ東京」（2014年、虎の門ヒルズ）、「アマンリゾーツ」（2014年、大手町）等）の日本上陸が本格化するからである。

　バブル時代を挟んで外資系ホテルが上陸した第１次ホテル戦争、リーマンショックを挟んでアジア系のホテルが上陸した第２次ホテル戦争に続き、第３次ホテル戦争が勃発しているのである。ところが、かくも、「劣化」した日本のホテルでは、迎え撃つことはできない。

＜「観光発展途上国」（ホテル後進国）から脱出＞
　日本は世界のホテル関係者から「観光立国どころか観光発展途上国（ホテル後進国）」と注視されている。彼らは、「観光発展途上国」ニッポンにいち早く乗り込み、より多くの成長を手に入れようとしている。

　今回の「食材偽装」問題は、日本のホテル再生のまたとないチャンスである。2020年東京オリンピックはホテル業界にとって追い風である。だからこそ、「本当に良いホテルとは何か」「顧客が満足するホテルとは何か」をホテル業界全体で追求することが大事である。
　そして、６年後にその結果を出し、オリンピック後の日本の真の「観光立国化」につなげてほしい、と結んでいる。

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