12日(土)、東京・世田谷区の区民会館において、「奇跡のリンゴ」を栽培する木村秋則氏による講演会が行なわれた。今回は、木村氏の自然栽培を科学的に研究している弘前大学の杉山修一教授と、元俳優で現在は農業に取り組む菅原文太氏が両脇を固めた。
「奇跡のリンゴ」は、これまで100年以上もの間、「農薬や肥料なしには生産不可能」といわれてきたリンゴを、青森県弘前市でリンゴ園を営んでいた木村氏が長年にわたる苦労の末に無農薬・無肥料で実らせたもの。2013年にはその話が映画化され、話題をよんだ。
そんな木村氏は現在、「自然栽培」の普及に取り組んでいる。
「自然栽培とは、土壌微生物の働きと作物の協調を生かした栽培で、徹底した管理が必要です。単なる放任ではありません。なぜ、私が自然栽培を提唱するか。肥料、農薬などの生産資材は世界食糧供給に大きく貢献しましたが、100年以上にわたる長い使用で農地生態系の破壊が進み、河川・海水の汚染におよび、地球温暖化振興の原因に至っているからです。陸の汚染が漁業に与える影響は深刻な状況で、生産者・消費者・行政が一体となり、早急に解決が迫られる課題なのです」(木村氏)。
また、杉山教授は自然栽培について、「自然栽培と有機栽培は違う。有機栽培は、化学肥料や化学合成農薬など合成資材の代わりに天然資材で栽培を行なう農業ですが、天然資材のなかには、硫酸カリウムなど人間にとって毒性のものも含まれています。また、放置栽培は病気やムシの被害を受けますので、これも人間の働きかけが必要な自然栽培とは違います」という。
自然栽培の成功の秘訣として、(1)農薬をまかない、(2)5月に下草を刈り、土壌微生物に有機物を与え、土壌微生物を活性化させる、(3)下草を伸ばし、微生物の生息地を確保する、という3点があると杉山教授はいう。
菅原文太氏は、「欧米に比べ、日本は有機栽培の比率が圧倒的に少ない。欧米は有機栽培には手厚い補助が出ているが、日本は政治が無関心です。農協が幅を利かせているのも問題がある」と、農政の現状について問題点を示した。
「私のリンゴ園には、生物多様性の世界がちゃんとあります。害虫・益虫・内生菌がいるからこそ栽培が継続しているのです。本当は害虫、益虫という区別自体が無いのかもしれません。世界で自然栽培をすれば地球がどれほど喜ぶか。日本から世界に発信していきたいと思います」(木村氏)。
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