12日、原発ゼロを目指す有識者らでつくる市民団体「原子力市民委員会」(2013年4月設立)が、「原発ゼロ社会への道―市民がつくる脱原子力政策大綱」を発表した。福島第一原発事故から3年。事故はいまだ終息せず、福島では10万人を超える人々が今も避難生活を余儀なくされている。福島県産の農産物、海産物は風評被害にさらされているが、苦境にある福島の人々への関心は薄れがちになっている。そうした現状に一石を投じた。
<いまだに残る「風評」>
厚生労働省は原発事故を受け、2011年3月17日、緊急的措置として「飲食物摂取制限に関する指標」を設け、その後12年4月1日から「食品中の放射性物質の新たな基準値」を施行した。福島県ではこの基準値に基づいて食品検査が実施され、現時点は生産時、出荷時、流通時に基準値を超える食品はほとんどないという。
原発事故にともなう農産物や食品の放射能汚染については、リスク管理が一定程度整備されてきたが、今なお「風評」問題にさらされ続けている。
たとえば、「東京都中央卸売市場での福島県産青果物主力7品目の価格が、12年度は大きく落ち込み軒並み全国平均を下回っていることなどが、消費者や流通関係者の間で福島県農産物離れが進んだ証左と考えられる」(配布資料より)。
福島大学の小山良太准教授によれば、「福島県外でも汚染あるが、『福島だけ』が風評の問題を生んでいる。放射線は、なぜか『福島だけ』に矮小化された。他県を含めて、どの農地がどれくらい汚染されているか科学的検証が必要だ」という。さらに、同じ福島県内でも、米の全袋検査の結果と要因分析から地域や田んぼごとのリスクが特定されつつあるようだ。
食品の検査態勢も課題が残る。「出口対策は進んだが、今後より消費者の安心を確保させるためには生産段階(入口)の対策が必要だ」と小山氏は訴える。また、食品の基準は厚労省、除染は環境省、土壌からの放射性物質移行に関する試験研究は農水省、広域な空間線量率マップ作成は原子力規制委員会、復興計画は復興庁という縦割り行政で進んでいる。「今後は復興庁を司令塔とし、新たな法令整備が求められる」(小山氏)。
JA福島は、福島県では津波や地震に起因する「直接死」は1,607人だったのに対し、その後の体調悪化や過労などで死亡する「震災関連死」が1,664人で、「直接死」を上回ったというデータを提示。「農業経営体の再開状況も、被災した1万7,200経営体のうち、1万100経営体(58.7%)しか再開できていない。また、農地(水田・畑地・樹園地・牧草)の除染も83.7%に止まっている」(JA福島)。
復興が進まないなかでの原発再稼働。虚構の「安全神話」は、いったいいつまで語り継がれるのだろうか。
≪ (前) |
※記事へのご意見はこちら