<日本の財政>
日本の場合、失われた10年がスタートする前である1990年代の初めには、国家負債はGDP対比68%にすぎなかった。しかし、景気が悪化すると、日本政府は経済を立て直すために、財政的にばら撒きに近い政策を始めた。
その結果、ちょうど10年後となる2000年度には、国家の負債はGDP対比142%になっていて、負債は10年前より2倍に膨れ上がった。また10年が経過したら、その時期には230%になっていた。先進国のなかで、戦争以外の要因で国家の負債がこれほど増加した事例はまだない。日本は、負債の泥沼にはまっているような状況である。
今は景気が低迷しているため、物価上昇率も低く、金利もゼロに近いため負債が230%であっても耐えられるが、もし景気が回復して物価と金利が上昇することになると、財政は利子の負担で苦しくならざるを得ない。仮に利率が1%上がっただけで、全体予算の5.7%が利子の支払いに割り当てられるだろう。すでに国家予算の半分ぐらいを国債発行で賄っているなかでこのような状況が発生すると、負債が負債を生む悪循環に陥るかもしれない。それを何とか維持していくためには、国債を発行して対処していくしかない。
今現在、日本の国債は日本の金融機関が90%購入しているので問題ないのだが、国債の発行額が大きくなると、自ずと外国にも国債購入を頼らざるを得なくなるが、下手すると、いきなり円は暴落し、経済に大きなショックが走る可能性も孕んでいる。
<健全財政を維持できたわけ>
韓国の財政を健全に維持できた理由は、2つほどある。
1つは、国の蔵を守るという使命感の下に仕事をしている過去の経済企画院から受け継がれている伝統である。予算を確保するのは、とても難しいプロセスが要る。とくに個人的なよしみなどで予算が組まれるのを事前に防ぐために、予算室に勤めている室長、局長、主要課長などで構成された審議会によって、予算は審査されることになっている。2012年度李明博大統領時代に、予算室の全員を大統領官邸に招待して、李大統領は一緒にお昼をとった。他の部門では、前例のないことである。それほど予算室は大事な部署で、国家財政を守る大事な役割を担っている。
健全財政を維持できたもう1つの要因は、憲法である。憲法第57条では、"国会は政府の同意なしに政府が提出した支出予算の各項の金額を増額したり、新しい項目を設けてはいけない"と明記されていて、国会は政府が提出した予算を減額はできても、増額することはできないようになっている。この条項がなかったら、代議士は自分の地域のための予算を組んだりして今の健全財政はなかっただろう。
しかし、負債に対する警戒心が弱くなりつつあって、今まで守ってきた城壁が少しずつ崩れている。公約事業または国家課題と言う題目で進められるプロジェクトに莫大な予算が使われているが、1つの部署でこれに歯止めをかけるのは、ほぼ難しい状況である。国会でも、法律をつくって予算を入れるケースが増えている。代議士は政府の同意なしに予算の増額は難しいが、法律を新しくつくって予算を確保することならいくらでもできる。
代議士は議員立法というかたちで法律をつくり、予算を組んでいくと、予算室で予算を抑えようとして代議士を説得しても、なかなか聞いてもらえないのが現状である。
国会でもこのような問題を認識して、法律を改正し"相当規模の予算を必要とする法律案を審査する所轄委員会は前もって予算決算特別委員会と事前に協議をしないといけない"という法律をつくるに至った。
ところで、負債の適正限度はどのくらいだろう。まだ世界的に見ても統一された見解はなく、研究者によってGDP対比40%~90%の多様な意見がある。国によっては置かれている事情が違うため、一概には言えないのだが、60%あたりが適正な水準ではないかというのが一般的な見解である。
経済危機が来たときに、頼れる唯一の綱は財政である。財政の支えがあれば、国は危機から立ち直ることができるが、その力がないと悲惨な状況になる。国も企業も個人も、節度が求められる時代である。
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