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「怒ると負け」のラオス事情(前) 
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2014年4月17日 07:00
赤坂綜合グループ Ogisaka Sole Co.,Ltd  代表取締役 飯田 国大

 「何で、こんなことになるんだ!!いい加減にしてくれ!もう頭にきた!!」――と、ラオスに住んでいると頭にくることがたくさんある。もちろんラオス以外の海外でも同じく頭にくることがあるのだが、中国や韓国、またはアメリカ、ヨーロッパとは違う次元の頭にくることが日々起こるのだ。

 しかし、ラオスでは昔から言われていることがあり、それは「怒ったら負けである」ということだ。たとえば、ラオスのある大手企業のトップ。彼は、まったく怒らないらしい。怒らないからトップまで上り詰めたとさえ言われている。ラオスの企業では、怒ったらトップに上り詰めるのは難しいと言われている。たしかにラオスでは、まだ街中で喧嘩している人、怒鳴っている人を見たことがない。ラオス人は非常に温厚なのである。

 ラオスに進出している日本企業のなかで、よく言われるのが、「スタッフに怒ると次の日から間違いなく会社に来なくなる」というものだ。これは本当で、ほぼ100%来ない。どうしても怒りたいときは、怒った後にすごく褒めることだ。そうすると、怒られたことは忘れ、褒められたことが最後に心に残るからだ。

 こんなこともあった。弊社で、夫婦で働いているラオス人のスタッフの話だ。この夫婦、奥さんはよく働くのだが、ご主人の方は教えた業務の工程を守らないうえ、何度警告しても改善しない。さすがに頭にきたので、「君はもうクビだ!!」と告げた。
 こういう場合、悲しい顔か、もしくは怒った顔をするのが普通である。しかし、このご主人はにやっと笑い、そして嬉しそうに帰っていくのだ。というのも、ラオスでは2~3世帯が皆一緒に住んで、家計をともにしている。そのため、1人が働かなくても生活には支障はないのだ。ご主人は今、毎日弊社に奥さんを送り迎えして、子どもの面倒を見ている。もう新しく仕事を探す気配もないようだ。

1,300ドルの家 私の友人がラオスに移住してきた際、家を探すのを手伝った。ラオスで家を探す場合、家賃の相場はだいたい800~2,000ドル。これは、日本からイメージすると、意外に高いと思われるかもしれない。というのも、ラオスはまだ核家族化しておらず、持ち家率が96%以上と高い。つまり、賃貸に出る家は基本的に外国人向けとなっており、そのためラオス人の収入からすると異常に高い相場なのだ。
 そんななか、ラオスの不動産会社に電話して仲介を依頼した。その不動産会社は、よくラオスの経済誌等でラオスの不動産が特集される際、ラオスの不動産市況を語る大手不動産会社と言われている。しかし、大手不動産会社とは言っても、スタッフはわずか5~6人の会社である。そもそもラオスの首都・ビエンチャンには、不動産会社は2~3社しかないのだ。

 電話で不動産会社に「予算は1,300ドル前後で家を探している。どこか紹介してほしい」と伝えると、「わかりました。明日朝10時に、滞在しているホテルに迎えに行きます」と返ってきた。ところが、翌朝10時になってもホテルに迎えが来ない。そこで不動産会社に電話すると、返ってきた言葉は「今、忙しい。午後にもう一度電話してくれ」というものだった。この時点で少し頭にきたが、我慢する。午後に改めて電話してみると、「今、ご飯を食べている。ご飯を食べ終わったら迎えに行く」と、日本人であれば信じられないような答えが返ってきた。その後、迎えが来たのは、午後に電話してから実に2時間あまりが経過してからだった。

 なぜ、このようなことが頻繁に起こるのか?それは、そもそもラオス人と我々日本人とでは、時間に対する概念が違うのだ。たとえば、ラオス人スタッフの1カ月の給料は約100ドル。1日に8時間働いたとして、1カ月22日間勤務で月176時間の労働になる。すると、1時間の価値は約0.5ドルになる。一方、我々日本人が海外に駐在した場合、ざっくりと1日の対価の目安として最低1,000ドル稼がねばならない。1日8時間労働だとすると、1時間の価値は約125ドルになる。
 つまり、ラオス人が日本人を待たせる1時間は、日本人にとっては125ドルの価値の損失であるのに比べ、ラオス人にとってはわずか0.5ドルの損失ということになる。時間に対する価値の考え方が、非常に低いのだ。

 ――話を元に戻す。不動産会社に物件を案内してもらい、気に入った物件が見つかった。そこで、「手付の家賃1カ月分を支払うから契約書を見せてほしい」と要請すると、「明日準備します」との答えが。しかし、翌日になっても持ってこない。そこで電話すると、「今、忙しい。また電話する」との返答。結局、その日は待っていても、電話がかかってくることはなかった。
 こちらは物件を決め、お金を払うと言っているのである。不動産会社は、契約が決まれば大家さんより仲介手数料として、家賃の1カ月分1,300ドルがもらえる。これは、ラオス人の1カ月の最低給料の13人分である。

 そこで、私はとうとう本気で怒った。「こちらは、あなたたちよりすごく忙しい。それでも、わざわざ日本から家を探すためにラオスに来ているのに、あなたたちはまったく約束を守らない。どうなっているんだ!!」と、ものすごく怒った。
 しかし怒ったら、ラオス人は怖がって私を避けてしまうようになった。そうすると、契約書は持ってこないし、連絡すらない。そこで、他の不動産会社に電話するが、そもそも電話にも出ないし、電話に出ても、物件を紹介するための連絡すら、こちらから連絡しない限り返事はない。ものすごく頭にきた。

 しかし、いくら怒っても選択肢は1つしかない。最初の不動産会社と話をつけるしかないのだ。このようにラオスでは、怒りすぎておなかが痛くなることもしばしば。怒っているこちらの方が、体調を壊しそうになるのだ。

(つづく)

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