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アニメの「聖地巡礼」で海外客を呼べ
書評・レビュー
2014年4月17日 07:00

日本のアニメは何がすごいのか(津堅信之著・祥伝社新書)

<日本人はアニメの本質が理解できていない>
 アメリカ「Anime Expo」やフランス「Japan Expo」など一般的にアニメが受け入れられているとされる国々では、毎年多くのアニメ関連イベントを開催、現在まで参加者数は増え続けている。しかし、日本のアニメの海外売上は2005年をピークに急激に下降している。「アニメはすごい」と言われる一方で「アニメは儲からない」とも言われる。

 アニメーション史研究家で京都精華大学アニメーション学科准教授の津堅信之氏は、その原因を「日本人が日本のアニメの本質を理解できていないからだ」と喝破する。
 本書は、第1章(「アニメ」と日本)~アニメ=日本のアニメとは何か~アニメはどうやって世界に広がっていったのか~いま、アニメは世界にどう受け入れられているか~第5章(日本のアニメはどうなるか)で構成、一貫して、著者は日本のアニメの特殊性を理解することの重要性を説いている。

<アニメとは「日本製アニメーション」のこと>
 子供、学生、大人世代までが一様にアニメを消費する国は日本だけである。日本以外の諸外国で、アニメーションを商品として消費する年代は未就学の幼児から、せいぜい小学生までである。この「アニメ」と「アニメーション」は別物であるという認識が、日本のアニメを理解する上で最も重要である。

 アニメーションとは動画とも呼ばれ、コマ撮りなどによって、複数の静止画像により動きを作る技術の総称である。そして、アニメとは、日本で制作され、日本で最もポピュラーに親しまれている日本製アニメーションのことを言う。カナダやアイルランドの英語圏等で、DVD販売店に行くと、「animation」(ディズニー作品など)と「anime」(ポケモン、ドラゴンボールなど)の棚は別々に設置されている。

<『巨人の星』のスポーツはクリケットに変化>
 この違いを理解すると日本のアニメの特殊性が見えてくる。先ず、第一に日本のアニメではバイオレンス(なぐる、蹴る、なぶり殺す)や性表現が普通に出てくる。しかし諸外国ではこれは認められていない。カソリックの国フィリピンでは、美少女戦士『セーラムーン』も、魔法を使うため忌避される。第二に日本のアニメは日本のコンテンツ(伝統文化・芸能を含む)でできている。海外に輸出するには、その国の実情に合わせて、ローカライズする必要がある。インドに輸出された『巨人の星』は『スーラジ ザ・ライジングスター』というタイトルとなり、主題のスポーツは野球からインドの国民的競技であるクリケットに変わった。第三にアメリカ、中国、韓国はもちろん、フランスを含むEU諸国でも、自国のアニメーション(文化等)を保護する為に外国コンテンツを大幅に制限している。
このような注意点をクリアーして、作品を制作・輸出していくことが、日本アニメ海外進出成功の秘訣となる。

<日本語を学きっかけは漫画とアニメである>
 今、日本のアニメが世界に普及しているポイントは2つある。ソフト面では現地の熱心なファンたちの地道な活動である。ハード面ではインターネット、しかも海賊版の存在だ。ファンは日本で放映されたものを一刻も早く(1時間以内で)、それも自国語で見たいという欲求が強い。そこに「ファンサブ(fansub)」が生まれた理由がある。

そして、世界各国の10代、20代の若者の日本語を学ぶきっかけは大半がアニメと漫画である。自分が好きなアニメや漫画を、吹き替えや字幕に頼るのではなく、原語(日本語)で見たり読んだりしたいからだ。

<五輪は「聖地巡礼」の絶好の機会と言える>
 「アニメなら儲かるだろう」と考えることも現実的ではなく、一方で「アニメは儲からない」と諦めてしまうことも正しい選択ではない。日本の人口は、1980年から2005年までで約1,000万人減少、今後20年間でも約650万人が減少すると言われている。国内市場の再生と共に海外への展開は不可欠である。

そこで筆者は打開策の1つとして、国内の地域振興で成功を収めている「アニメ聖地巡礼」を最後に提案している。海外から日本を目指す流れを創出、地域振興につなげるのだ。2020年東京オリンピックは、海外アニメファンの「聖地巡礼」の絶好の機会となる。

【三好 老師】

【注1】「ファンサブ」(fansub): ファン (Fan)+ サブタイトル(Sub Title) による造語で「ファンによるお手製の字幕をつけた動画」という意味。

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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