＜繰り返された過ち＞
　ニュースサイト「ＨＵＮＴＥＲ」が追及している紳士服の大手「ＡＯＫＩ」の詐欺疑惑が波紋を広げている。同サイトに読者から同様の経験をしたとのメールが次々と寄せられており、「ＡＯＫＩ」の企業体質まで問われる展開となった。今回の疑惑は、「先着５名半額」と謳った広告を見て来店した客に対し、セール品（先着５名分）が売り切れたとして高額なスーツセットを売りつけたというものである。同サイトの取材で、実際には２組しか売れていなかったことを「ＡＯＫＩ」側は認めた。

　景品表示法へ抵触する可能性がある内容だが、この問題は今回に限った話ではない。「ＡＯＫＩ」は、３年前の2011年７月26日、消費者庁より不当景品類および不当表示防止法（景品表示法）第６条に基づく措置命令を受けた。「ＡＯＫＩ」に関しては「全品半額」が実際にはすべての商品ではなく、また、一定の条件を満たしていないと半額が適用されなかったことが問題視された。実際には、テレビCMで表示価格の半額で販売される商品の適用条件を記載していたが、消費者庁は「表示時間が短く、明瞭に記載されていない」とした。

　「ＡＯＫＩ」だけではない。３年前の措置命令は、ほぼ同様の内容で、青山商事、コナカ、フタタ（現コナカ子会社）、はるやま商事を含む大手５社に対して行なわれた。実際には適用されないことがある大幅割引をまき餌にして客を呼ぶ手法は今なお健在なのか。〝３年前の過去〟があるため、今回の「ＡＯＫＩ」の詐欺疑惑は、業界全体への不信感へとつながる可能性を秘めている。それでは、大手４社（コナカがフタタを買収したため）の財務状況はどうなっているのか――。

■ＡＯＫＩ
　「ＡＯＫＩ」を運営する(株)ＡＯＫＩホールディングス（本社：神奈川県横浜市）は東証一部に上場し、全国で店舗展開している。措置命令を受けた後の2012年３月期から増収増益となっており、13年３月期の連結決算では売上高1,605億8,900万円と前年同期比で9.55％の増収を果たした。特筆すべきは利益率の高さだ。営業利益は170億7,800万円と利益率換算で10.63％を計上したほか、経常利益は175億9,000万円と同換算10.95％、最終利益は98億3,200万円（同換算6.12％）となった。同期の売上原価は8,258億円であることから、売上高から差し引き、売上総利益（粗利）は7,800億円、粗利率48.57％。自己資本比率も57.57％と盤石な数値。

■洋服の青山
　「洋服の青山」を経営する業界最大手である青山商事（株）（本社：広島県福山市）も消費者庁の措置命令を受けた後、増収増益を達成している。13年３月期の連結売上高は2,124億円と前年同期比で6.2％増収。営業利益は212億6,700万円（利益率10.01％）、経常利益246億3,500万円（同11.6％）、最終利益126億2,100万円（同5.94％）と高い数値を誇る。自己資本比率は69.69％。同社の売上原価は9,112億円で売上高から差し引いた粗利は1,212億7,800万円。粗利率57.9％。

■紳士服のコナカ
　06年12月に福岡の「フタタ」を株式交換で経営統合した（株）コナカ（本社：神奈川県横浜市）。13年９月期は、服飾雑貨の不振で売上高に伸び悩み、前年同期比で1.9％減の647億円となった。営業利益は38億2,700万円（利益率5.91％）だが、同期はデリバティブ評価益57億6,300万円を含む営業外収益67億7,300万円を計上し、経常利益97億7,600万円（同15.10％）を残した。これにより最終利益は67億2,900万円（10.4％）に。売上原価は307億7,300万円、粗利益339億2,600万円。粗利率は52.43％。自己資本比率は74.5％と４社のなかで最も高い。

■紳士服はるやま
　はるやま商事（株）（本社：岡山県岡山市）は、11年３月期に前期比で１％減の505億8,764万円を計上したが、翌期から増収となっている。13年３月期は売上高523億7,106万円と前年対比1.63％の増収となったほか、営業利益28億3,159万円、経常利益31億2,671万円、当期純利益18億5,065万円と他３社と比べて利益率は低いものの増益に。同社の売上原価は219億9,108万円、売上高から差し引いた粗利益は303億7,998万円。粗利率58％は、４社のなかで最高値。財務面も自己資本比率57.9％という安定した数値を維持している。

　粗利平均が約30％といわれるアパレル業界のなかで、紳士服大手４社は高い収益性を有している。４社とも自己資本比率が高く、「財務上は非の打ちどころがない優良企業」と言える。しかし、３年前の措置命令とその後の決算・財務内容、そして今回の「HUNTER」の報道が、ある疑問を生じさせた。「高い収益性は詐欺的販売手法によって保たれているのではないか」という疑問だ。

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