厚労省の調べで、全国の認知症の高齢者は462万人(2012年)で、これは高齢者全体の15%にあたる。さらに、予備軍を加えると860万人となり、高齢者の実に4人に1人が認知症となる計算だ。この数は間違いなく増え続け、「老老介護」ならぬ「認知症同士介護」になるのは必定である。
この状態に、国も対策を打つ。2000年に介護保険をスタート。骨子は、「長期入院を避け、できるだけ自宅で過ごせる」ように、訪問介護・看護のサービスを充実させてきた。認知症同士が生活する「グループホーム」の充実化も図ってきた。とくに認知症の徘徊を地域で見守る活動や、行方不明者の捜索のために、警察や行政、地域が連携して捜査する「SOSネットワーク」が取り入れられた。
「SOSネットワーク」とは、高齢者が行方不明になったとき、行政や警察に加え、捜索協力を約束してくれた地域の企業(郵便局、コンビニ、配送業者、宅配業者、食品配達業者、介護サービス業者、タクシー会社など)、それに地域住民として町内会(自治会)などがタッグを組み、捜索に協力するネットワークを言う。行方不明者を発見した場合には、速やかに警察や行政の窓口などに連絡して身柄を確保。家族の元に返す。このとき、優しく声かけをすることが大切だという。
私も3年ほど前、家の近くの歩道を、髪を振り乱しながら疾走するお婆さんを見たことがある。文字通り"疾走"と呼べる速さで駆け抜けていたのだ。その姿は、まさに「山姥(やまんば)」。どうしても、駅で待つ友人に資料を急ぎ届ける必要があったため、その場をやり過ごした。
ところが帰途、彼女をまったく違う街で発見した。最初に見つけた場所からは、かなりの距離がある。「どこに行かれるんですか」と声をかけた。彼女の定まらない目が、私を見つめている。携帯電話を持たない私は、そばを通った人の携帯を借りて警察に連絡。間もなく到着した警察官に、彼女を引き渡した。不思議だったのは、私とお婆さんとのやり取りに、まったく関心を示さない人がたくさんいたということである。「興味がない」「関わりたくない」という雰囲気があった。
それを物語るように、「SOSネットワーク」は地域によって温度差が激しく、まるで機能していない地域も少なくない。
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。
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