<「やってみた方が良い」味を変えた「鶴乃子」が大当たり>
伝統の味と技を守りつつ、革新も怠らない(株)石村萬盛堂。それを企業理念として語るのは容易いが、経営の第一線に身を置くとさまざまな課題に突き当たる。同社はそれらを1つひとつ解決してきており、100年以上の暖簾に裏打ちされた老舗の強さとも言えるだろう。
「くり餡入り鶴乃子を2年半前に売り出しました。私は鶴乃子の味は絶対に変えてはいけないと反対でしたが、息子たちから『やってみた方が良い』と言われ、発売するとこれが大当たり。若い世代の意見も聞いてみるのが大事だと気づきました」と語る石村善悟社長。
商品開発では、くり餡入りのヒットを機に桜、抹茶、濃い茶とシリーズ化。定番鶴乃子の市場は食われないまま、季節商品として異例の1億円を売るまでに位置づけた。まさに伝統と革新の融合は、素早い経営判断があって機能するということを見せつけた。
一方、お土産菓子の営業では技と味を守る理念が揺らいでいる。売場のスペースを確保するには、何よりも日持ちが要求される。店頭に山積みすれば露出が増えて訴求力も高まり、高回転してロスも抑えられるからだ。
「弊社が今日まで存続できたのは、お客さまに美味しいと言っていただけるお菓子をつくってきたからです。鶴乃子が100年も売れ続けてきたのが何よりの証拠です。でも、マーケットの現状もありますから、日持ちのする商品や賞味期限の検討も必要かと思います」(石村社長)。
菓子業界が効率を求めるあまり、ヒット商品のサイクルは短い。それは銘菓が育ちにくい環境を生み、「福岡には慶事進物に持っていける菓子がない」との声さえあるという。
石村社長にはジレンマのようだが、不易流行という言葉もある。むしろ同社にとって伝統と革新は相反しないのかもしれない。卓越した経営手腕できっと乗り切れるはずである。
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伝統の味と技を守り、革新を続けながら、ブランドの世界観を重視。それが「ショコラボア」「ブリュレ・ド・サンク」などのヒット商品を生む。マーケットの現状に添いつつ、鶴乃子を背景にしたマシュマロでは、トップブランドを維持していく。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:石村 善悟
所在地:福岡市博多区須崎町2-1
創 業:1905年12月
資本金:9,500万円
TEL:092-291-2225
URL:http://www.ishimura.co.jp/
<PROFILE>
石村 善悟(いしむら・ぜんご)
1971年、東京大学経済学部卒業後、(株)石村萬盛堂入社。79年、3代目として代表取締役社長に就任。その後、洋菓子業態「ボンサンク」、和洋菓子の総合店「いしむら」の展開し、軌道に乗せたほか、ホワイトデーの提案等、自社のみならず業界全体における革新的な取り組みを行なっている。趣味は謡曲と読書。
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