<消費税増税は絶好のチャンス、プレミア感を持つ商品を売り出す>
マーケットが日々変化する一方、業務体制における革新は常に怠らない。創業100年を契機に導入した改善策NPSにも、10年近く経ってメスを入れようとしている。
これは生ケーキの製造を1日8回に分けて行なうものだが、コスト管理は良くなった反面、石村社長から見れば「しかともない」商品に成り下がってしまったという。これに歯止めをかけるということだ。
「手間を省けば人員は削減できますが、売り場がそれを許してしまうと、お粗末な商品しか並びません。消費税の増税は絶好のチャンスです。価格を300円から350円に値上げすることで、見栄えの良いケーキもつくり、プレミア感を出していこうと思います」(石村社長)。
お客は、店頭で価格を見ながら購入するかを決めるわけだが、財布を開くときに価格が上がっていると、影響は避けられない。
だから、消費税の値上げには、65円饅頭のような価格訴求の商品はそのまま据え置き、値上げする商品は価格に見合う内容にして対応していくという。併せて4月には思い切り価格訴求する催事も行なう計画という。
シリーズ商品のヒットで鶴乃子の比率が高まり、全体の原料費が抑えられていることも、強気の戦略に向かわせているようだ。むしろ価格表示の方が懸案になっている。
石村社長は先に本体価格と税額、後に総額を書く方法を提案すると、売り場担当者からは「本体価格を見てレジに商品をお持ちになるお客さまを裏切ることなります」と反対された。
この意見には石村社長も「現場の方がしっかりしていた」と納得。目下、総額表示を大きく、本体価格と税額は小さく表記する案で、文字の割合をどうするかを検討中という。
<経営理念に忠実に生きブランドの世界観を重視する>
昨年11月、イオン九州のたっての希望で、イオン小郡ショッピングセンターに出店した。初めてのSC展開だったが、ロードサイド店が1月は落ち込むため、同じ季節変動で予算を設定したところ、予対150%という予想外の売上を記録した。
石村社長は商品構成については模索の状態で、それをクリアしたときにロードサイド店と同じくらいの販売力を持つだろうと読む。ただ、SCにも手応えを感じたのは間違いなく、今後はワオンカードをうまく連動させるなど、さまざまな販売手法を考えるという。
「大河ドラマ『軍師官兵衛』関連の商品では、『官兵衛の赤かぶと』を発売しましたが、売上状況を見て次年度も継続するかを検討します。通販事業は、石村慎悟営業戦略室次長が長けているので任せていますが、商品はマシュマロ1点に絞った方がヒットしやすいと思います。世界に持っていける商品ですから、海外展開もその方向で考えています」(石村社長)。
もっとも、石村社長が懸念しているのは、菓子業界が不毛の競争に走るあまり、けじめを失いつつあることだ。その点、同社は経営理念に忠実に生き、ブランドの世界観を重視する姿勢に変わりはないという。
当初、総合業態「いしむら」の店舗では「萬盛堂」「ボンサンク」「萬年家」と3つのブランドを島にして展開。いしむらはこれらブランドの集合体と位置づけた。それが時代を経て入り交じってきたため、「今のうちにやり直さなければならない」と自戒する。
マシュマロについては、最近はオーナーシェフの店でもレアタイプの美味しいものをつくるところが増えている。まさに「シュワリ」はそれをリードする業態になる。鶴乃子を背景にしたマシュマロでは、トップブランドを維持する。同社の戦略に少しの迷いもない。
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<ワンポイントPR>
伝統の味と技を守り、革新を続けながら、ブランドの世界観を重視。それが「ショコラボア」「ブリュレ・ド・サンク」などのヒット商品を生む。マーケットの現状に添いつつ、鶴乃子を背景にしたマシュマロでは、トップブランドを維持していく。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:石村 善悟
所在地:福岡市博多区須崎町2-1
創 業:1905年12月
資本金:9,500万円
TEL:092-291-2225
URL:http://www.ishimura.co.jp/
<PROFILE>
石村 善悟(いしむら・ぜんご)
1971年、東京大学経済学部卒業後、(株)石村萬盛堂入社。79年、3代目として代表取締役社長に就任。その後、洋菓子業態「ボンサンク」、和洋菓子の総合店「いしむら」の展開し、軌道に乗せたほか、ホワイトデーの提案等、自社のみならず業界全体における革新的な取り組みを行なっている。趣味は謡曲と読書。
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