韓国の旅客船「セウォル号」の沈没事故で、安山市の高校に務める52歳の教頭が救助された後に現場近くの海域で首を吊って死亡した。救助後、教頭は「自分だけが救助された」と事故への責任を感じていたという。韓国では、「高校の修学旅行の行き先を『済州島にしたらどうだ?』と提案したのがこの教頭だった。行き先として済州島を選ばなかったら、生徒たちは事故に巻き込まれずに済んだのにと、思い悩んだうえでの自殺」と報じられている。
日本では、事故の被害者であるはずの教頭の自殺に驚く人もいるだろう。もちろん、教頭には今回の事故に刑事責任はない。保護者からの叱責は受けるだろうが、教頭も明らかに被害者の一人である。「責任感が強い」というだけで自殺に至るだろうかと思ってしまう。しかし、ある韓国人通訳者は「韓国人だったら『自殺』という行為を思いつくことに無理はない。救助もせず逃げた船長の行為からすれば正反対にも見えるが、自殺衝動は『極端』とも言える学校教育にも起因しているのかもしれない」と同情する。
韓国の自殺は、OECD(経済協力開発機構)30諸国のなかで最も高く、2010年には人口10万人あたりの自殺者数で世界ワーストとなった。経済苦が根底にあるとも言われているが、芸能界で、俳優や女優が自ら命を絶つケースも少なくない。
絶望的に経済破綻しているわけではない韓国でなぜ自殺率が高いのか。前述の韓国人通訳者は、韓国で小学校から行なわれている「一番になれ。二番以下は負け犬だ」という教育が原因だと指摘する。精神の強靭さを養うためなのだが、それが逆に「一番になれなかったら、もうおしまい」といった思考回路を生み出すこともある。しかし、韓国ではこうした激しい言葉も、保護者は「スパルタ教育」の一環として捉え「競争を勝ち抜くにはやむを得ない」と受け入れているという。
韓国の受験は、基本的に併願ができず、ほぼ一発勝負。不合格なら「負け」として白黒はっきりついてしまう。受験の失敗をきっかけに「人生もう終わり」と、自殺する若者も少なくない。激しい受験戦争の結果、そこに敗れた人間が、未来に可能性を見出そうとせず命を絶つことで終わらせてしまうのだ。退職後に自殺する社会人が多いことも深刻になっている。
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