韓国・珍島沖の旅客船沈没事故。現時点での「行方不明者」の生存が厳しいことなどから日本での報道も少なくなったが、首相が辞任に追い込まれた韓国では、事故に関しての波紋がさらにヒートアップしている。
根本には、客船セウォル号が座礁し沈没していくまでの「約2時間」、韓国では多くのテレビ局が現場を「生中継」しており、韓国人の多くが模様を「目に焼き付けていた」ことに起因する。朝9時半前後から約2時間、韓国人は船が沈没していく様を見ていた。そして、見ている沈没の光景から、高校生を含む多くの乗客が「まさか」救助されなかったとは、という絶望感に陥った。テレビを通じてではあるが、一部始終を見ていただけに、「なぜ救助できなかったのか」という国や救助隊に対する不信感が高まったと言う。
さらに、「高校生が多かった」ということにも心を痛めた。韓国と日本を往来するある韓国人通訳者は「『あとからニュースで知った』というのではなく、『生中継で見た』ということが大きかった。そばに客船があるのに実は救助が進んでいなかったという絶望感。テレビで生中継されていることで『無事に助かるだろう』という安堵があったにも関わらず、合計300人を超える死者、行方不明者が出たことで、国に対する怒りで張り裂けそうだ」と語る。事故発生当初は船体の場所も捉えているし、ゆっくり沈没している状況で、客が出てくるだろう、救助も間に合うだろう、という楽観的な見方があった。行方不明のマレーシア航空機の事件との対比もあっただろう。楽観ムードに押されて「全員救出」という誤報をフライングで配信してしまった局すらあった。国内では「大人が子供を殺した」とも叫ばれている。
船長を含む10人以上の乗組員、関係者が逮捕された。「船長を含む乗組員が救助を怠った」という流れで責任問題は収束させられようとしている。しかし、韓国国民のなかには、その流れに反発する動きも出ていると言う。前述の韓国人通訳者は「乗組員のせいにして、国が『責任逃れ』をしようとしているのは明らか。我々は事故発生から2時間、生中継で見ている。2時間もあるなかで、国がレスキューを素早く正確に送り込んでいれば全員が助かったはず。乗組員や船舶会社の写真を一網打尽にしたところで我々は騙されないし、国への怒りは消えない」と憤る。
また、事故は韓国国民の消費行動にも影響を与えている。「事故後、韓国全体で外出が減った。映画、ショッピングの客も激減。デパートも売り上げが3~4割落ちている」(前述の韓国人通訳者)。日が暮れると、母親の集団がロウソクを持ってソウル市役所前を練り歩く。「こういう国では子供は育てられない」という強い抗議の意味が込められているそうだ。
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