NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、オバマ大統領の訪日に合わせ行なわれた日米首脳会談の成果について言及した、4月25日付の記事を紹介する。
オバマ大統領が2泊3日の訪日日程を終えて離日した。日本を出発したオバマ氏は韓国に到着した。韓国訪問後、オバマ大統領はマレーシア、フィリピンを歴訪する。4月24日に日米首脳会談が行われ、共同記者会見が実施されたが、日米共同声明の発表は先送りされた。
安倍首相は記者会見でTPP閣僚交渉を継続して、その結果を踏まえて共同声明を発表するとしていた。TPP交渉の大筋合意を成立させて、これを共同声明に盛り込むことを目論んだのだが、この目論見は成就しなかった。
結局、TPP交渉は物別れに終わり、この内容を含む共同声明が発表された。
共同声明では、尖閣について次の表現が盛り込まれた。
「米国は,最新鋭の軍事アセットを日本に配備してきており,日米安全保障条約の下でのコミットメントを果たすために必要な全ての能力を提供している。これらのコミットメントは,尖閣諸島を含め,日本の施政の下にある全ての領域に及ぶ。この文脈において,米国は,尖閣諸島に対する日本の施政を損おうとするいかなる一方的な行動にも反対する」。
「日米安全保障条約の下でのコミットメント」とは、日米安全保障条約第5条に規定された事項を念頭に置いた表現である。
日米安全保障条約第5条の規定とは次のものだ。
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
米国の日本防衛義務と表現されることもあるが、これは正確でない。日米安保条約第5条は、「自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動すること」を定めているだけで、米国が日本を防衛する義務を負っているなどとは書いていない。
日米首脳による共同記者会見および日米共同声明で明記されたことは、「日米安全保障条約の適用範囲が日本の施政の下にある全ての領域に及ぶ」ことであり、「日本の施政の下にある全ての領域」に「尖閣諸島が含まれる」ことである。それ以上でもそれ以下でもない。
日米安全保障条約第5条に、安保条約の適用範囲として、「日本国の施政の下にある領域」との表現がある。尖閣は日本施政下に置かれているから、安保条約第5条における「日本国の施政の下にある領域」に該当する。
それだけのことである。それ以上でもそれ以下でもない。米国政府はかねてより、「尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲である」ことを明言しており、今回の発言および共同声明はこれを踏襲したに過ぎない。読売新聞を筆頭とする御用メディアが、成果が皆無に近かった日米首脳会談のイメージを取り繕うために、このことを、あたかも大きな成果であるかのように報道しているだけである。
オバマ大統領は記者会見で、わざわざ、尖閣諸島の領有権について、日本の領有を認めるものではないことを明言した。米国は尖閣諸島の領有権については「係争地」であるとの認識を示している。その一方で尖閣諸島が日本施政下に置かれていることから、これを安保条約の適用範囲だと認めているに過ぎない。
NHKをはじめとするメディアは、「米国が尖閣が安保適用地域であると表現したこと」を、「米国が尖閣について防衛義務を負うことを表明した」と伝えているが、これは間違いである。「日米安保の適用範囲であること」と「米国が防衛義務を負うこと」は、まったく異なることであるからだ。
結局、日米首脳会談が開かれたが、新たな成果は皆無に近いというのが実情である。
強いて成果をあげるとすれば、ミシュラン三ツ星を獲得している日本の寿司レストランが名店であることをオバマ大統領が実感したと考えられることと、日本の主権者には「百害あって一利なし」と考えられるTPPの大筋合意が成立しなかったことであろう。
※続きは25日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第847号「オバマ氏の重要正論を報道もできない劣化メディア」で。
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