目下、東京は再開発に沸いている。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、インフラ整備が進み、外国人の観光客やビジネスマンの誘致を狙った大型商業施設やオフィスビルの建設も活況を呈している。そうしたなか、「新国立競技場」の建設が国家プロジェクトとして進められているが、さまざまな問題を抱え物議を醸している。
<不透明さが疑念を生む>
4月23日、絵画館前へのサブトラック設置を問題視する記者会見が開かれた。疑義を呈したのは、主に建築家ら6名だった。そのトップの槇文彦氏は建築界の大御所。現国立競技場と道を挟んで隣接する東京体育館を設計した立場から、建築家のなかで先陣を切って、昨年10月「新国立競技場の問題は歴史的文脈で考えるべきだ」と提言。それから建設反対の輪が一気に広がった、という経緯がある。
記者会見では、「聖徳記念館絵画館前は、その前庭ともいうべき馬蹄形広場と参道ともいうべきイチョウ並木が一体となって印象的な景観を形成している。どれひとつ欠かすことのできない三位一体の構成要素である」と指摘。その上で、「サブトラックはオリンピック会期中の仮設だと理解しているが、会期終了後には馬蹄形広場を現状復帰するのが必須だと訴えたい」とした。
この連載は「再開発」という観点から入ったが、実はもともと明治神宮外苑は景観を保全しなければならない「風致地区」で、再開発とは程遠い土地柄だった。新国立競技場の建て替えが決まるのと並行して、13年6月に「再開発促進区」として定められ、高さ制限や容積率の緩和で最高80メートルの建築が可能となった。新国立競技場は最高70メートルで、この一帯の景観にそぐわないという意見が噴出した。
再開発で重要な作業に「地権者との調整」がある。当地区の地権者は、神宮外苑のほか新宿区、港区、渋谷区、日本スポーツ振興センターなど入り組んでいるものの、逆にいえば公(おおやけ)だけで調整しやすく、どのような議論を経て「再開発促進区」に定められたのか不透明になりやすい環境だった。
議論の舵取りをするはずの「国立競技場将来構想有識者会議」も、ラグビー、サッカーなどの団体といった受益者がいる一方、建築家はデザイン案の審査委員長を務めた安藤忠雄氏だけという点も、建築的な観点からの意見が反映されなかった要因だった。
さらに全4回の議事録のうち、今回のデザインが決まる3回目までは基本的に非公開。筆者は独自に議事録を手に入れたものの、デザイン案の決定過程が黒塗り状態。この選考過程の不透明さも、建築家らは疑問視している。
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