目下、東京は再開発に沸いている。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、インフラ整備が進み、外国人の観光客やビジネスマンの誘致を狙った大型商業施設やオフィスビルの建設も活況を呈している。そうしたなか、「新国立競技場」の建設が国家プロジェクトとして進められているが、さまざまな問題を抱え物議を醸している。
<まずは新国立競技場の建設に関心を持とう>
これまで見てきたように、「再開発」という観点から見ても、新国立競技場を含む明治神宮外苑は「もともと風致地区だった」という点からして、他の再開発とはまったく様相が異なるのがわかる。それを前提にした要項でデザイン案を募集しなかったことが、さらに問題を大きくしてしまった原因だった。
ほかにも、いろいろ疑問は尽きない。
(1)約1,700億円とされる事業費のうち、周辺整備にかかる約500億円を東京都が負担することで内々に進んでいた。しかし、4月になって舛添知事が「そのような話は一切引き継いでいない」と発言。都と文部科学省の折り合いがついていないことが表面化した。
(2)基本設計が大幅に遅れており、新たに組み直しているはずのスケジュールがよくわからないまま、解体工事が7月に始まろうとしている。
(3)基本設計が終わっていないため、今年降った大雪のような災害時の避難計画および屋根の耐久性の見直しなど、構造的に生じうる問題対策の進捗がよくわからない。
最後に、新国立競技場問題をわかりすく理解できる著作が2冊発刊されたので、その紹介をしておきたい。
1冊目は、今年3月に発刊された『新国立競技場、何が問題か―オリンピックの17日間と神宮の杜の100年』(平凡社)。構成の柱は、新国立競技場問題に対し多くの人が関心を持つきっかけとなった、2013年10月のシンポジウムでの発言内容だ。主に建築家の目線から問題提起がなされている。
2冊目は、4月に発刊された『異議あり!新国立競技場――2020年オリンピックを市民の手に』(岩波書店)。市民グループの「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」が中心となって著されたものだ。ブックレット形式で、ポイントがわかりやすくまとめられている。
関東圏以外に居住する人は、この問題を「東京という一地方で起こっているもの」として捉え、あまり関心を抱かないかもしれない。ただ、投入されるのは国民の税金だ。疑問だらけで突き進む新国立競技場の建設を、やはりこのまま見過ごすわけにはいかないだろう。
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