オバマ訪日で見えた日米関係の今後と
あるべき「文装的武備」という日本の安全保障
<日米、対ロ・中、日本のとるべき防衛戦略>
バラク・オバマ大統領訪日が終わり、その直後に去年の参院選後初めての国政選挙である鹿児島2区補選が自民党候補の辛勝で終わり、世間はゴールデンウィークに突入している。連休中には与野党の議員が大挙して外遊する。石破茂・自民党幹事長は訪米し、高村正彦副総裁らは訪中する。この後の、政治的なイベントとしては安倍首相の諮問機関である「安保法制懇」が集団的自衛権に関する答申を連休明けに出すことになっており、秋の臨時国会で閣議決定による集団的自衛権の限定行使容認と関連法案の改正と続き、米側との日米新ガイドラインの見直しと続く。
一方で、経済面で懸案になっているのは、TPP、原発再稼働、消費再増税の判断である。
TPPについては、日米首脳会談でも話し合われたが、仮に日米間で大筋合意に達したとしても、それはオバマ政権側の米議会と中間選挙を控えての有力支持団体へのアピールという側面が強いだろう。何しろTPPは日米だけではなく12カ国からなる多国間交渉であるから、すべての交渉参加国が妥結しなければ決まらない。ただ、日米合意だけを二国間協定として米国側がつまみ食いする可能性はある。
今回、編集部の依頼してきたテーマは、「ロシア・中国が露骨な拡張政策をとっています。アメリカは後退するばかりです。日本はどうすればどうすればいいのかという防衛戦略について知りたい」という点だ。私は日米関係の専門家なので、この点を私や私の所属する研究所の分析枠組みである「属国・日本論」という立場で行なうことになる。
次回(後編)以降に展開する私の結論を先取りして一言で言えば、日本の安全保障政策は、(1)日米安保の維持、(2)日中協商の深化、(3)日本国内のナショナリズムの制御 という3点を重点にして行うべきである。
現在、(1)については必要以上に日米関係は重視されているきらいがある一方で、日中関係は尖閣諸島問題という極めて些細な問題で行き詰まっており、それが(3)の日本国内と中国国内における不健全なナショナリズムの拡大という形でお互いに悪影響を与えている。
(1)~(3)の日本の国家的課題を解決するためのキーワードが、「文装的武備(ぶんそうてきぶび)」というものである。これは戦前の戦略家・政治家である後藤新平が伊藤博文に提唱した戦略コンセプトであり、この考えは今も妥当性を持つ。以上が私の提唱する国家戦略であり、結論である。
ただ、このテーマを考える上でも日米首脳会談の前後の出来事や、その会談内容、共同声明について分析を加えていくことは意味があることだと思うので、まずはこの点について述べたい。
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<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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