オバマ訪日で見えた日米関係の今後と
あるべき「文装的武備」という日本の安全保障
<ケネディ駐日大使、日米関係強化に動く>
オバマ大統領来日は、18年ぶりの国賓としての来日を実現させたということで、外務官僚としてはまずは満足の行く結果だろう。国賓ともなると、皇居での歓迎式典も中継される。オバマ大統領は安倍首相よりも天皇皇后両陛下と一緒に居た時間の方が今回は長かったのではないかと思われる。
日米関係は安倍首相が12月26日に靖国神社に参拝し、その後1月のダボス会議で安倍首相が現在の中国を第一次世界大戦前のドイツになぞらえる講演をしたころは冷却化していたとみられるが、ウクライナ問題の発生、外交スケジュールとして決まっていた大統領訪日というイベントがあったこともあり、徐々に実務的には改善を見せているようだ。
「実務的には」というのは、安倍首相という個人に対する好き嫌いというレベルではなく、アメリカが提唱している「アジアへのリバランス」という外交戦略を実現するために掲げている目標実現のために、嫌な相手でも交渉の糸口を見つけるということである。アメリカはプーチン大統領が嫌いでも、その思惑を理解し、プーチン大統領との妥協点を探っている。それと同じことである。
安倍政権は、オバマ政権にとっては、かつての菅、野田両政権のような対米従属一辺倒の政権に比べれば独自の歴史観を持つ閣僚がいるので、付き合いづらい相手であり、生理的には受け付けないところがあるのは事実だろう。
しかし、それと二国間関係の維持という話は別である。アメリカはきっちりと目標を定め、それを実現しようと決めて交渉に望んでくる。
キャロライン・ケネディ駐日大使は安倍首相の靖国参拝に「失望する」というコメントを大使館を通じて出したが、その裏ではしたたかに日米関係の強化に動いていた。この裏方を演じているのが、キャロライン大使に次ぐナンバー2のカート・トン首席公使であることはすでに私はここで書いた(駐日大使を影で動かすトン様)。
これを裏付けるのが、キャロライン大使が3月以降は精力的に安倍首相との接触を続けていることである。
駐日大使就任後、安倍首相と彼女が同席したのは、新聞各社が載せる「首相動静」を振り返れば次のようになる。2013年は11月21日、12月3日の2回、今年に入っては1月21日、2月19日、3月7日、4月5日、4月10日、4月12日、4月18日、4月21日、そして日米首脳が銀座の高級すし店で会食した4月23日である。
このうち1月と2月は来日する議員団との同行であり、3月7日はウクライナの緊迫化を受けての官邸訪問で日米電話首脳会談に同席した。結局、これをきっかけに安倍首相とケネディは靖国神社参拝のわだかまりを超えて未来志向でやっていくことを合意したようである。
これ以降、安倍首相の誘いに応じて、わざわざ山梨県のリニア実験線に出向いて試乗をアピールしたり、大阪のユニバーサルスタジオで安倍首相とツーショットでハリー・ポッターのポーズを決めてみせた。
キャロライン大使と安倍首相のわだかまりが溶けたのは、4月1日に慰安婦問題について安倍内閣が河野談話の見直しを行なわないと閣議決定したからだろう。これで慰安婦問題を女性の人権問題として捉える同大使としても一応の面目が立つわけで、「安倍内閣とその他の支持者の極右的な歴史認識は違う」という体裁を一応は取りつくろうことが出来た。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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