オバマ訪日で見えた日米関係の今後と
あるべき「文装的武備」という日本の安全保障
<外務省とSTAP論文騒動の共通性>
日米首脳会談を前にこれだけの出来事が起こっているなかで、ワイドショーの話題をかっさらっていたのが、理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーとそれを取り巻く科学者たちの愛憎入り交じる泥仕合だった。
小保方問題をここで詳しく論じるつもりはないが、この問題もまた、研究者の倫理という観点で議論ばかりされており、日米共同で行なわれた「STAP細胞研究」という論点や、この問題が知財特許といったTPPの議論とも密接に関わる問題であることがほとんど論じられないまま、関係者が単独で記者会見を繰り返すという事態が続いた。
小保方ユニットリーダーの研究論文に切り貼りがあったことが問題になったために、他の研究者の過去の論文までの掘り返しが繰り広げられ、しまいには小保方リーダーを調査していた理研調査委員長の石井俊輔研究員の論文にもデータを改ざんしていた疑いが浮上、さらには最近になって、STAP細胞のライバル的存在だったiPS細胞の第一人者であるノーベル賞受賞者の山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長が著者となった過去の論文にまで疑義が広がる結果となり、泥仕合は更に悪化している。
この問題は、理研側がSTAP細胞を大々的に宣伝したが、その弱さを外部に突かれて自滅したというところにあるのであり、若輩研究者である小保方女史を指導できなかった理研の上層部の責任が大きい。
一見、日米関係とは関連のなさそうな小保方問題だが、「コピペは日本の文化」なのであるという視点を持てば極めて関連した問題になる。
それは日本の学問というものが多かれ少なかれ欧米大学で教えられていることの輸入品でしかない、ということに起因する。理科系はさほどでもないが、社会科学系の学問は、そもそもがすべてアメリカの学問の「コピペ」である。これは後編でも述べるが国際関係論(セオリーズ・オン・インターナショナル・リレーションズ)なんかは特にそうだ。主体がアメリカである国際関係論を無理矢理に日本の学者や政治家が日本に当てはめようとすること自体に大きな無茶がある。
そのような視点を持てば、英語論文に得意ではなかった小保方女史が大学院の博士論文でまるごとコピペをしていたというのはそれほどおかしいことではない。コピペをした文章を引用として注記すれば問題はなかった。むろん、それが学者としての態度として適切かどうかは別だ。
日米首脳会談の直前にバタバタと議論が進んでいるアジェンダは、集団的自衛権の行使容認、武器輸出三原則の見直し、TPP推進、慰安婦問題でこじれた日韓関係の立て直しの4つがメインであった。
このうち、日米共同声明には集団的自衛権とTPPについて盛り込まれた。
武器輸出三原則の見直し歓迎については、閣議決定後まもない4月5日の日本経済新聞で訪日したヘーゲル国防長官のインタビューとして「同盟の枠内での自衛隊の役割拡大、最先端の能力への投資、相互運用性の改善、兵力編成の近代化、現在および将来の安全保障の現実に合わせた同盟の役割と任務の適合」を支持するという形で述べられていることから、積極的に支持されたとみることができよう。
ところが、これらの4つのアジェンダは、2012年8月に米戦略国際問題研究所(CSIS)が出した、第3次アーミテージ・レポートに全て盛り込まれている対日要求項目であり、野田・安倍政権はこの要求事項を次々と実現させていただけにすぎないのである。
CSISで、アーミテージ・レポートを執筆したリチャード・アーミテージ元国務副長官は、オバマ大統領訪日直前にも訪日しており、この際に石破茂・自民党幹事長と極秘会談し、この際に「集団的自衛権について急ぐ必要はない」という考えを伝えたと報じられた。私はこの報道を聞いて、「アーミテージもさすがにオバマ政権の意向をくんで安倍政権の勇み足を止める方向にでたか」と変な安堵感を持ってしまった。
しかし、よくよく報道を見てみると、この場所では、アーミテージと石破は、武力攻撃に至らない日本への主権侵害など、平時と有事の間の「グレーゾーン」事態に対処するための法整備が必要との認識で一致したと時事通信が伝えている。
どうやらアーミテージの思惑としては、「まずはTPP、次に集団的自衛権だ」という順番を日本側に指示したに過ぎないらしい。
石破幹事長とアーミテージが一致したグレーゾーン事態というのは、集団的自衛権の対象となる武力攻撃に至らない日本への主権侵害ということであり、別名「マイナー自衛権」ともいわれる。具体的には、平時の漁船の領海侵犯の対応が警察権、軍事侵攻に対向するのが自衛隊(と場合によっては在日米軍)であるが、例えば漁民に偽装した特殊部隊が尖閣諸島に上陸したような場合はグレーゾーンであり、ここは自衛隊が「対抗措置」で対処することになっている。
日米首脳会談後に出された共同声明を解説する報道では、TBSがこの点について奇妙な解説を加えている。日米共同声明では、「尖閣諸島への日米安保の適用」を明記しているが、それ自体は民主党政権時代に前原誠司外務大臣に対してヒラリー・クリントン国務長官が「尖閣は日米安保第5条の適用」だと明言した時以来、米国の一貫した態度である。だから、このオバマ大統領と安倍首相の日米首脳会談で確認された内容も、日本の尖閣への主権問題には踏み込んでいないので、まったく進歩がないというふうに見える。
しかし、外務省幹部によるとそれは違うのだという。それを報じたのがTBS(JNN)の報道だ。
日米共同声明では、「日米安全保障条約の下でのコミットメントは、尖閣諸島を含め、日本の施政の下にある全ての領域に及ぶ」と明記されていますが、英語の原文では「Commitments」と複数形になっています。
これは、共同声明作成のための事務レベル協議で、条約の第5条に基づいた「武力攻撃への防衛義務」だけでなく、偽装漁民の上陸など「武力とは認定しにくい状況」でも日米が共同で対処することを確認したことに基づくということです。
武力攻撃と認定しにくい状況でもアメリカ軍が自衛隊とともに対処することが確認されるのは初めてで、共同声明では、「アメリカは尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と続いています。
しかし、私は共同声明の原文も含めて読んでみたが、このような解釈は外務省の勝手な解釈に過ぎないのではないかと思う。おそらくアメリカ側は表立って反対はしないが、積極的に賛成もしなかっただろう。「日本がそのように主張したいならば勝手にすればいい」というところではないか。典型的な霞ヶ関文学、外務省文学の一種ではないかと思う。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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