NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、NHK受信料支払い凍結運動と、立憲政治の根本を理解していない安倍晋三首相の政治運営の危うさを明らかにした5月7日付の記事を紹介する。
「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」が5月1日からNHKの放送受信料支払凍結運動を開始した。
詳しくは視聴者コミュニティサイトおよびコミュニティの共同代表を務める醍醐聰東大名誉教授のブログ記事を参照いただきたい。
「醍醐聰のブログ」
5月1日付記事「受信料凍結運動で籾井NHK会長の辞任を求める包囲網を!」
5月6日付記事「NHKを国策翼賛放送へ仕向ける籾井会長」
国会の「ねじれ」問題を考察してきたが、「ねじれ」には明らかに効用がある。
権力のトップにある者が民主主義の要諦を正しく理解しているなら問題は少ない。しかし、権力トップにある者が、民主主義の要諦、立憲政治の根本原則を正しく理解していない場合、政治運営は極めて危ういものになる。
近年の政治状況で見ると、小泉純一郎氏と安倍晋三氏が、この危うさにおいて突出している。この二人は、各種の規定を、自分の「権利」だと勘違いしている。「権利」は最大限行使するのが「得策」だと考えているようだ。そうではない。各種制度は権力トップの権能を示しているのであって、その運用に際しては、より高次の行動規範に依ることが、暗黙の前提とされているのである。
小泉純一郎氏の場合、自分が示した考え方に同調しない者は、党から排除するとの行動を示した。郵政民営化の方針に賛成しない者は党から追放し、さらに選挙区に刺客を送る
という行動までとった。自民党の党首に独裁権限が与えられていると勘違いしたようだ。
「自由」と「民主」を尊重する政党であるなら、各問題についてさまざまな意見があるのが当然のことだ。党首が自分の考えに同調しないメンバーを切り捨てることを許す政党なら、党名は「不自由非民主党」に変更するべきだろう。
また、小泉氏は参院で郵政民営化法案が否決されて、衆院を解散した。ほとんど意味の分からない暴走ぶりを示したのだ。
小泉氏の暴走を許していた環境が、やはり「ねじれ」のない国会だった。小泉氏は日本の憲政を乱し、悪しき前例を作り出したのである。
昨年7月の参院選に際して、メディアの大半が「ねじれ解消」を推進した。最大の貢献をしたのがNHKである。「ねじれ解消が参院選最大の焦点」であると、一体誰が決めたのか。私たちは言葉のマジック、言葉のトリックに警戒しなければならない。NHKはニュース原稿のなかに、「ねじれの解消を最大の焦点として戦われる今回の参議院選挙」などのフレーズを潜り込ませる。どこの誰が、参院選の最大の焦点が「ねじれの解消」だと決めたのか。国会で、「参院選の最大焦点はねじれの解消」の決議でも行ったのか。国民投票で「参院選の最大焦点はねじれの解消」との見解が承認されたとでも言うのか。
そうではない。
NHKが勝手に「参院選の最大焦点はねじれの解消」と言っているだけなのだ。その目的は、参院選で自民党を勝利させて、ねじれを解消するためである。
「ねじれ」が解消すると政権は暴走できる。ただし、「暴走できる」のであって、必ず「暴走する」のではない。ねじれが解消したところで、民主主義の要諦、立憲政治の要諦を正しく理解する者が、権力のトップにある限り、政権は暴走しない。「少数意見を尊重」し、「憲法の規定を尊重」して、政権運営にあたる。
しかし、各種規定を自分の「権利」であると勘違いし、自分の「権利」である以上、その規定をすべて使い果たすことが、自分の利益になると考える、浅はかな人物が権力トップに立つと、政権は必ず暴走する。
安倍氏に至っては、「選挙で勝った政権は憲法解釈を変えられる」との主旨の発言を示した。立憲政治の基礎すら理解していないことが露見した。NHK経営委員の任命権は内閣総理大臣にある。しかし、放送法第31条には、首相がNHK人事を私物化しないための条文が明記されている。
放送法第31条
委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有
する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。この場合
において、その選任については、教育、文化、科学、産業その他の各分野及び
全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない。
NHK経営委員の任命権は内閣総理大臣にあるが、内閣総理大臣は、単なる好き嫌いでNHK経営委員を任命してはならないのである。「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ」、「広い経験と知識を有する者」でなければならないのだ。
しかし、安倍晋三氏は完全な「おともだち人事」=「超偏向人事」を実行した。このひとつの事例だけを取ってみても、安倍政権の「暴走」は明らかである。
NHK人事の肝は、経営委員-会長-副会長・理事である。NHKの業務運営は会長、副会長、理事で構成されるNHK理事会に委ねられる。
NHKの放送内容を支配するには、理事会を支配することが必要になる。内閣総理大臣はNHK経営委員の任命権を持つ。この任命が国会同意人事である点がひとつのポイントだ。
※続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第857号「NHK受信契約任意制移行推進の市民運動」で。
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