＜全員が敗者になるゲームの始まり＞
　韓国ではよく韓国のことを「財閥共和国」と呼んだりする人がいる。この言葉は、少数の財閥が韓国経済を牛耳っていることを皮肉った表現である。言い換えれば、韓国ではすでに資本の力が政治の力を上回っているということである。
　共和国というのは、ご存知のように国民が主権を持っている国家体制のことである。ところが、韓国は「財閥共和国」なので、財閥が主権を持っている国という意味になる。もちろん、この言葉は、数少ない財閥が韓国の権力を握りつつある現実を風刺した表現である。

　朴謹恵大統領になってから、韓国の政治で「経済民主化」という掛け声がよく聞こえるが、これは少数の財閥の手にある権力を一般の国民に戻して正常化しようという意味で使われている。今後、韓国の経済民主化に失敗すると、韓国の経済は奈落の底に落ちる可能性が高いと指摘する専門家もいる。
　富が少数に集中するということは、両極化が深まることを意味することで、財閥と中小企業、お金持ちと庶民の格差が開きすぎると、経済生態系がだめになってしまう。それから貧しくなった多数の庶民は、消費する余裕を持たなくなる。消費が活性化しないと、経済は低迷するようになり、社会が停滞する。結果的に全員が敗者になるゲームだが、それが韓国ではすでに始まったと思う。
　韓国経済が今後低成長にならざるを得ない構造的な理由を挙げるならば、それは両極化であり、両極化をもたらした背景には財閥の異常な膨張がある。

＜経済生態系の崩壊＞
　2010年度のKOTRA（日本のJETROに相当する機関）の資料によると、韓国の企業の合計数は312万5,457社である。
　この中で大手企業が187社で0.00006％、中堅企業が1,291社で0.04％、残りの99.9％が中小企業である。雇用者数で全体の割合を見ると大手企業が全体の雇用者のうち7.5％、中堅企業が7.6％、中小企業が84.9％を占めている。
　統計だけで判断すると、韓国の経済生態系のほとんどを中小企業が占めているといっても過言ではない。信じられないかもしれないが、これは事実である。

　中小企業の存立が危うくなると、韓国経済自体が危機に瀕する可能性すらあるし、大量失業をもたらす状況にもなる。しかし、この中小企業が絶体絶命のピンチに追い込まれている。
　その原因になっているのは韓国財閥の異様な成長形態である。韓国の財閥企業は、巨大なヒトデみたいに手当たり次第飲み込んでしまう。一般的にベンチャー企業が成長すると中小企業になり、中小企業が成長して中堅企業になり、中堅企業が成長して大手企業になる。もちろん、すべての企業が大手企業になれるわけではない。しかし、健全な生態系であればあるほど、中堅企業または大手企業に成長する中小企業の数が多くなる。

　韓国の経済生態系はごく少数の大手企業、少数の中堅企業、それからあまりにも比重が高い中小企業で構成されている。普通すべての生態系は、上へいけばいくほど細くなるのは常である。しかし、韓国の経済生態系は、細い程度ではなく針のように細いというよりとがっている。中小企業が中堅企業になることも大変きびしいことだが、中堅企業が大手企業になれる確率は極めて低いと言わざるをえない。
　他国と比較してみると、この点はもっと浮き彫りになる。KOTRAの資料によると、全体企業の中で中堅企業が占めている割合は、ドイツが11.8％、中国が4.4％、日本が3.7％、スウェーデンが13.2％、イギリスが0.7％、イタリアが0.5％になっていて、0.04％の韓国がその割合がいかに低いかがよくわかる。

　中堅企業の数が多くなるためには、企業の成長段階に応じてサポートをしてくれるはしごのようなものが必要である。しかし、韓国にはこのはしごが存在しなのだ。弱肉強食のジャングルの法則だけが通用する殺伐した風景である。成長をお手伝いしてくれるどころか、持っているはしごさえ奪って行く有様である。

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