ゴールデンウイーク中の4月28日、番記者数名に58回目の誕生日を祝ってもらい、結いの党代表の江田憲司氏は極めてご満悦だった。あまりに機嫌が良すぎたのか、思わず口を滑らせてしまった。
「石原(慎太郎氏)が(新党の)共同代表になることはあり得ない」「下駄の雪みたいについてくるかどうか」。
発言はオフ扱いという気安さがあったためか、江田氏の言葉に日頃抑えていた感情が次々と出てきた。これら発言はメモとして流され、後に日本維新の会の議員らにばらまかれた(※)。これに目を通した関係者は、思わず苦笑した。「石原さんが読んだら激怒するぞ」と。
みんなの党、日本維新の会、結いの党は総じて「ベンチャー政党」と言われている。新興政党という意味だ。それぞれが主張する政策の共通点は少なくない。となれば、合流して新党をつくり、一緒に行動する方がいい。永田町では、数がものを言うからだ。
4月25日、参院で日本維新の会と結いの党が統一会派を結成した。10議席を上回ったため、議院運営委員会に理事を出すことができ、予算をともなわない法案提出権を持つことになる。この統一会派の結成は、石原氏と江田氏の対立がある衆院に先行する、日本維新の会と結いの党の合流とされた。果たしてそうなのか。
「我々は結いの党と合流するつもりはない」と、日本維新の会の関係者はきっぱりと主張する。「そもそも維新内部で大阪グループと東京グループの分裂がある。内部でとどまればいいが、党分裂につながりかねない」。
それを誘発しそうなのが、江田氏の存在だ。江田氏は日本維新の会と合流する際には、石原氏ら旧太陽系を斬り捨て、橋下徹大阪市長と共同代表に就任するつもりだ。
一方で、石原氏ら旧太陽系は、江田氏を蛇蝎のごとく嫌っている。「結いの党は、所詮は自然消滅する政党だ。江田氏以外のメンバーは吸収して問題ないが、江田氏だけごめんだ」(同関係者)。
実際に、日本維新の会内部の江田氏に対する批判は強烈だ。
5月9日午前に開かれた同党政調役員会で、桜内文城氏が持参したペーパーを配布した。内容は、新聞記事などに記載された江田氏の発言。石原氏らの憲法破棄論に対しては、「手垢のついたイデオロギーが背景にある」などと手厳しい内容だ。これらに目を通した中山恭子氏らは顔をしかめたという。
桜内氏は2010年の参院選で、みんなの党から比例代表で出馬して当選したが、12年の衆院選で日本維新の会に鞍替えした。当時みんなの党幹事長だった江田氏は、日本維新の会に移籍した桜内氏ら3名に対して、議員辞職を求めたことがある。
「そのときの恨みがまだ残っているようだ。桜内氏は非常に自尊心が高いし、江田氏とは似た者同士で、もともと肌が合わなかった」(関係者)。
永田町はまず人間関係、端的に言えば好き嫌いがものを言う。そのルールに従わない江田氏のやり方がまかり通るのは難しい。
「片山(虎之助日本維新の会政調会長)さんは、参院で結いの党と統一会派を組んだものの、結いの党と新党をつくる気持ちはさらさらない。むしろ自分たち旧太陽系と考え方が近く、選挙にも強い平野達夫氏などと組む方が得策と考えているようだ」。
前述したような各特権を得るために10名を確保することが至命だった参院と異なり、衆院では日本維新の会はすでに53議席を有している。すでに予算をともなう法律案を提出できるうえ、野党第一党の民主党との差はわずか2議席だ。3議席あれば逆転し、副議長のポストを手に入れることができる。無理をしてまで、9名の結いの党と組む必要はない。
一方で、結いの党側はジレンマをも感じている。
「我々が日本維新の会に投げた61項目の政策については、4月26日に両党間で大筋に合意したとされたが、実はまだ確答をもらっていない。確答をもらわないと、新党はつくれない。江田さんの発言は、こうしたことに対して一石を投げたものではないか」。
また江田氏に「8割はうちにくる」と言われたみんなの党のメンバーだが、江田氏らに対するアレルギーはかなり強い。
「江田氏ら結いの党はその思考がリベラルで、我々は保守の思想だ。集団的自衛権についても憲法改正についても、考えが全く相容れない。そもそも私は結いの党に入りたいという"8割"のなかに入っているのか。もし私の名前がそのなかに入っていたとしたら、はなはだしい誤解だ」(みんなの党議員)。
お盆までに新党を立ち上げるつもりの江田氏だが、その前途は極めて厳しい。主たる原因は江田氏の強気だが、いくら自身の考えが最も正当だと説いても、百戦錬磨の先輩政治家たちをうまく操ることができないことには、その成功は叶わないと言える。
(※)なお、江田氏のオフ懇メモと言われている文書の内容は以下の通り。
<維新について>
・橋下は本当は退きたいんだけど、大阪組が「橋下じゃなきゃ駄目だ」と言うから共同代表になる可能性はある(江田・橋下共同代表体制を示唆)。石原共同代表なんて絶対にない。
・幹事長は松野で決まり。松野は完全に政局の人だから政策のことはよくわかっていないし、そもそも右翼。そして数がほしいから党内をまとめようとしている。でもそれでいい。僕が持っていないものを持っている。バランスが取れている。
・合流時期はお盆前までに。通常国会中は控える。国会が終わったら一番効果的なタイミングで合流する。
・自主憲法制定はもう話はついていて、結いの党に回ってきたところで撃ち落とす。維新で自主憲法制定なんて思っているのは5人ぐらいしかいない。 憲法は自主憲法制定じゃなくて、憲法改正で落ち着く。
・うちは政策で一切譲るつもりはない。(石原らが)下駄の雪みたいについてくるかどうか。ついてくるならついてくればいい。ついてきちゃうんじゃないかなぁ。藤井孝男なんかは今頃不安で仕方ないんじゃないか。連休中に鳩首会議でもなんでもやるだろう。
・でも橋下は石原を「今でも好きだ」と言うんだよな。
<民主党について>
・とにかく今の民主党執行部を変えなきゃ駄目だ。何もできない。僕は岡田・野田でもいいし、前原・細野でもいいけど、とにかく執行部を変えろと言っている。若手に両院議員総会を開くように仕向けないといけない。
・民主党丸ごとはできない。園田さんは「岡田、野田とかとも」って言ってるが、それはできない。石原さんはそのときは自分が前面になんて言ってるが、そんなのはできない。
・先週、岡田さんと飯を食った。岡田、野田との会合も定例化したからまた連休明けに飯を食うんだけど、あの2人と会うといつも選挙協力の話だ。
<みんなの党について>
・みんなの党は8割はうちに来るだろう。結いと維新が合流する時に来るかどうか彼らは決断を迫られる。今は八方美人みたいなことを言って るが、みんなの党にいたって与党にも野党にも相手にされない。もう渡辺喜美についていくのは5人ぐらいしかいない。あの松田公太だって見限ったって話だ。
<与党について>
・集団的自衛権は公明党とうちが言ってることは同じなんだよ。個別的自衛権と警察権で説明できる。連休が明けたら山口、井上とも話す。学会の谷川は僕の同級生だからね。
・長谷川(現内閣官房参与)は3年上、秘書官の今井は僕の3年下だけれども、長谷川に聞いたが「総理はもう二度と靖国には参拝しない」と言っていた。
・飯島さんについて、「なんで内閣官房参与にしているんですか?」と聞いたんだよ。そしたら「飯島さんは野に放つと政権批判をするのでやっかいだから、だからあえて参与になってもらった。総理も我々も別に飯島さんを頼ったりはしてない」と言っていた。
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