<おもてなしにマニュアルはない>
ところで、接客というソフト面でのおもてなしは、ハード面の充実以前の大前提だ。この点について藤木社長は、同社のすべての施設に属する従業員1人ひとりに対して、「お客さま第一主義精神でサービスを提供する快適プロデューサー」であることを徹底して求める。「おもてなしにマニュアルはありません。突き詰めようとすれば非常に奥深く、難しいものなのです。ですからスタッフ全員が自分で考え、状況に合わせて演出できるようになってほしい」とその意図を明かす。たとえばホテル内のレストランで客から、テーブルに設置された灰皿が気に入ったので持ち帰りたいと言われたとする。通常、「灰皿は備品であって、提供品ではない」という見解に基づきお断りするだろう。それでもおもてなしとして、できるだけ丁寧に笑顔を添えてお断りするか、上司の指示を仰ぐため一旦その場を離れるなどの努力をするだろう。しかし、もし客がジョークで返してくれることを望んでいたとしたら、これらの対応では義務感で事務的に処理されただけ、という印象を与えてしまい、おもてなしによる接遇とは程遠くなる。
「もしかしたらその方の望みは、ひどく滅入っていた気分を少しでも和らげることだったのかもしれません。それを察し、ジョークで返して相手を笑わせることができたとしたら、最高のおもてなしとなることでしょう。だから、私は常に『現状において、最高のおもてなしとは何か』ということを考えながら、お客さまに接してほしいと思っています」と藤木社長は語る。お客さま第一主義とは、相手の言動に機械的に反応することではない。相手が何を望んでいるかを的確に判断し、それにふさわしい対応を行なうということだ。
「あってはならないことですが、対応を間違ってしまってお客さまが憤慨されることもあり得ます。しかしそのときは、なぜ気を悪くされたのかを汲み取り、その改善に向けて精一杯おもてなしをすることです。それがお互い理解し合うきっかけとなり、喜びと満足になることだってあるのですから」(藤木社長)。実際、一度立腹されたにも係らず誠実にアフターフォローをしたことによって長年の顧客となっていただき、今でも可愛がっていただいているスタッフもいる。同社が考える「ホスピタリティ」とは、「おもてなしの心」を持ってお客さまに接し、お客さまの喜びや満足を自分たちの喜びとすることなのだ。そこには常に新しいホスピタリティの創造がある。
<大切なのは「健康」「家庭」「会社」の3K>
そして、藤木社長がホスピタリティとともに、スタッフ全員に大切にしてほしいと思っているのが「3K」というテーマだ。 1番目のKは「健康」、2番目のKが「家庭」、3番目が「会社」。「この順番を間違えてはいけません。まず、健康でなければ何もできないでしょう。そして家族・家庭が円満でなければ、会社で十分な力を発揮することはできませんね。逆から大切にしては成り立ちませんよ」と藤木社長は微笑む。
経営理念には、「サービス業の原点として、『お客様第一主義』をすべての基本とし、お客様の視点に立った質の高いサービスを提供」という項目のほか、「創意・工夫と自主・革新を尊重する自由闊達な企業風土を創出」や「社員の生活水準の向上と、豊かな社会人としての資質・精神の高揚」も掲げられており、ホスピタリティ企業が、人というソフト面の豊かさがあってこそ成り立つものであることが良く伝わってくる。
この秋、開業する「ホテルフォルツァ長崎」は、新しくできる大型商業施設の中核となる。ハード面とソフト面の両立で、また新しい「おもてなし」が生まれそうだ。
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<COMPANY INFORMATION>
代 表:藤木 辰正
所在地:福岡市博多区博多駅東2-14-1
設 立:1978年3月
資本金:9,950万円
TEL:092-473-7117
URL:http://www.fj-hotels.jp/
<PROFILE>
藤木 辰正(ふじき・たつまさ)
福岡県粕屋郡宇美町出身、1950年10月生まれ。福岡大学法学部卒。証券会社勤務を経て、1977年に福岡地所に入社。開発本部長、常務時代には「マリノアシティ福岡」や「リバーウォーク北九州」など、多くの商業施設の開発を手がけた実績を持つ。
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