人口減少のマイナス面ばかりが広く議論されているように見受けられるが、プラス面がないわけではない。
たとえば、日本において考えられるプラス面としては、狭い国土ゆえに人口が減れば、その分、居住空間が広がることが期待できる。1人当たりの土地取得や耕作地も拡大する可能性が高い。また、海外に移転した日本企業の生産拠点の国内回帰もあり得る。
また、人口が減れば、食料やエネルギーに対する需要も減り、環境負荷も少なくなるだろう。広い意味で、生活の質が高まる可能性も否定できない。その意味では、温室効果ガスの削減にも寄与することができ、日本の国際的な地位が向上することもあり得る。すべてを悲観的に捉えるのも問題である。
1950年、日本は人口規模で世界第5位であった。今日では、世界第10位になっている。このままでは、2050年には15位になるはずだ。とはいえ問題は、人口規模のランキング順位ではない。中国、インド、インドネシア、ロシアといった近隣の人口大国においてはエネルギーや食糧需要が高まるため、我が国との間において資源をめぐる領土的対立が激化する恐れがあること。となると、日本の安全保障を確保するために、信頼できる同盟関係が不可欠となる。今後は国際的な同盟関係を強化することが、ますます重要な課題となると思われる。
国力を測るバロメーターとしては、経済力や軍事力に加え、国土の広さや人口の大きさが欠かせない。我が国は人口が減少傾向にあるため、国力そのものが今後は衰退する国として、海外からパートナーとして低い評価を下される可能性もあり得る。
そうした危機的状況を跳ね返すために、信頼できる同盟関係を早急に築く必要がある。集団的自衛権の議論も軍事的側面に限定せず、より広範な視点から国のあり方を再検討する機会にすべきではなかろうか。その際、移民を含む人的交流の果たす役割を国民的に議論すべき意味は大きい。
実際のところ、人口減少に対する切り札の1つとして、外国人の移民を受け入れるべきではないか、との議論が巻き起こっている。今でもいわゆる「3K」職場には外国人労働者が多数従事している。とはいえ、日本人の間にはいまだ純血思想が根強く、短期の観光客や専門職の外国人は歓迎するものの、長期滞在や日本国籍を取得するような移民に対しては、強烈な拒否反応が想定される。
アメリカの著名なシンクタンクであるブルッキングス研究所で、移民問題の専門家として高い評価を得ている学者に、オードリー・シンガー女史がいる。彼女の次のような発言はショッキングであった。曰く「日本は移民の受け入れを拒むことで、没落していく国の代表例として注目されている。その点で日本は世界の教訓と言えるだろう」。この警鐘は重い意味を持つ。アメリカにとっても世界にとっても、日本は反面教師ということなのだろうか。
日本が移民の受け入れに対して消極的であることは、世界的によく知られている。人口減少への対応の鈍さが注目を集めているわけだが、シンガー女史のようにあからさまに日本の問題点を指摘する専門家が出現すると、改めてこの問題を直視せざるを得ない。
実際、我が国の移民受け入れは世界最低水準と言えよう。たとえば、日本の人口の6%しか国民のいないスイス。永世中立と外国人制限で有名だが、そんな小国ですら、日本の3倍もの外国人の帰化を認めている。
では、日本が移民に対してどのような対応をしているか、ここで確認してみたい。
一般永住者として外国人が日本での在留資格を得るには、一定の条件を満たさなければならない。具体的には、日本に10年以上住み、素行が善良で、独立して生計を営むことができる十分な資産や技能を持つことなどが求められる。そうした条件を満たす一般永住者の数は、09年には前年に比べ4万人強増加。現在、日本に滞在する外国人の数は220万人程であり、日本の総人口に占める割合は1.7%に過ぎない。
この比率は、世界の中では170番目に位置する。いわば、世界のなかで最も外国人の移民受け入れに対して門戸を閉ざした国が、日本と言えそうだ。とはいえ、日本に骨を埋める決意をした外国人のなかには、日本国籍を取得する、つまり帰化を望む人たちもいる。だが、実際に帰化を認められるのは、年間で1万4,000人程度である。
多くの日本人が移民の受け入れに反対する理由は、犯罪の増加の恐れがあることであろう。03年に内閣府が行なった調査によれば、「外国人観光客が増えてほしい」と考えている日本人はほぼ50%近くだったのに対し、「増えてほしくない」と答えた日本人は32%であった。「増えてほしくない」と答えた人たちに理由を聞いてみると、「観光客を装った犯罪者が入国し、犯罪の増加につながることが心配」という回答が90%を超え、圧倒的だった。
このアンケートを見る限り、「外国人が増えると、犯罪が増加する」と多くの日本人が懸念していることが見て取れる。しかし、そうした危惧はどこまで現実に裏付けされたものなのだろうか。逆に言えば、日本人は外国人の増加が犯罪につながると、思い込み過ぎているのではないだろうか。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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