日本政府は2008年に観光庁を立ち上げ、積極的に外国人の観光誘致を進めようとしている。2020年の東京オリンピックを目標に、2,000万人の外国人観光客を呼び込む計画だ。一方で、外国人を歓迎する姿勢を見せながら、他方で外国人の犯罪への係わりを懸念する国民が多いことに対して、何ら有効な対策を講じていないのではないか。
実際の状況はどうなのだろうか。警察庁のデータによれば、外国人の犯罪検挙件数は05年をピークに減少傾向にある。外国人の入国者数は年々増加し、今では1,000万人を突破しているにもかかわらず、犯罪事案は少なくなっているのが事実だ。この点、メディアも国民も、現実と冷静に向き合う姿勢をもたねばならない。
現実は日本人労働者が減っているうえに、将来的に人口が自然に回復することは望み薄である。となれば、必要な労働力を確保し、サービスを維持するためには、移民の受け入れも検討せざるを得なくなるのではないか。もちろん条件付きで。
移民を労働者として受け入れる場合、まず開拓すべき分野は、日本国内で人材不足に悩む産業や地域を最優先すべきである。具体的には、農林水産業や中小の製造工場、介護や福祉の現場ということになる。我が国は、世界に冠たるモノづくり大国であったが、現在では、そうした技術を持つ中小企業の後継者不足が深刻な課題となっている。厳しい労働環境や海外との競争が激化するなかで、意欲のある後継者が慢性的に不足しているのは由々しき事態だ。
農業も林業も同様である。とくに農業従事者の高齢化は深刻で、平均年齢は65歳を超えている。現状のような高齢化のままでは、生産性を上げることは容易ではない。TPPへの加盟の是非を問う前に、食糧の自給力維持という観点から、日本の農業を取り巻く農村の基盤強化などは避けて通れないはずだ。そのなかで、最も緊急を要する課題が農業後継者の確保である。
年齢層を引き下げなければ、生産性の向上は望めない。自国で若い労働者を確保できないのであれば、外国人を働き手として受け入れることを前向きに検討しなければならなくなると思われる。とはいえ、彼らを単なる労働力として使い捨てするのではなく、定住、永住を可能にするための仕組みも考えておく必要がある。でなければ、真に働く意欲を期待することができないからだ。
さらに言えば、外国人労働者が日本の地域社会や伝統文化を活性化させるパワーを秘めていることにも注目すべきである。これまで、外国人に閉鎖的であった日本の地域社会において、近年外国人たちの受け入れを促進することで、地域の活性化に結びつけた事例がいくつも知られるようになってきた。
たとえば、外国人受け入れの現場で活躍するNPOの代表者を集めて行なわれた「社会に活力を与える多文化社会構築プロジェクト」のなかからは、「多文化パワー」という言葉も生まれているほどだ。これは、ホワイトカラー層に属する外国人だけではなく、3Kの現場や全国に散らばる中小企業で働く労働者、主婦やパートを含む多様な人たちが、日本にはない経験や文化といった価値観を日本人と共有することで、日本の地域を活性化させているという事例の宝庫に他ならないと思う。
現在、我が国の地域社会には、草の根の国際交流活動を行なうさまざまな民間団体が存在している。国際交流基金によれば、そうした団体が全国には約8,000もあるという。姉妹都市交流に携わる団体もあれば、留学生を積極的に受け入れる組織もある。国際協力を推進するNGOもあれば、日本在住の外国人のために生活支援や、日本語学習の支援を行なうグループもあるといった具合だ。
こうした地域社会に根付く幅広い国際交流組織を活用することが、今後の日本社会の国際化の進化を促すに違いない。日本社会の隅々に、実はすでに多くの外国人が働いていることも忘れてはならない。食品加工工場やクリーニング工場が、その典型である。コンビニで売られる弁当やサンドウィッチも外国人労働者がつくっている場合が多い。また、道路や下水道の工事現場で働く労働者のなかにも、外国人が多く見られる。
こうした外国人の存在なくしては、今日の日本社会の歯車は回っていかない。ましてや、これから人口減少化が急速に拡大する日本の未来を思えば、こうした外国人労働者の存在なくしては社会が機能しないことになるだろう。実際、内閣府では「毎年20万人」の移民受け入れ案を打ち出している。
08年、自民党の外国人材交流推進議員連盟では「1,000万人移民受け入れ構想」をまとめた。もちろん外国人を受け入れるに当たっては、厳しい選別条件をパスさせる必要がある。定住を前提に、日本語を学ぶ意欲のある外国人を受け入れることは当然であり、加えて、地域社会が受け皿となる意欲と創造力を持つことも、外国人受け入れの成功のカギになるはずだ。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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