オバマ訪日で見えた日米関係の今後と
あるべき「文装的武備」という日本の安全保障
連休明けはしばらく政治も動かないと思っていたが、今週中には例の安保法制懇の報告書が出るということで、通常国会と並行して集団的自衛権の論議がいよいよ盛んになりそうである。
<大手新聞の電話世論調査への疑問>
本題に入る前に、まず頭慣らしに余談をお許し頂きたい。私は朝、時折散歩の最後にファミリーレストランで朝食をとる。都内のファミレスでは、最近、「読売新聞」が無料で配布されていることが多い。前回、私は読売新聞の独走的なTPP報道について一つの仮説を提示した。読売に限ったことではないが、新聞の朝刊一面記事は各社の思惑が隠されている。今朝(12日)の読売朝刊もそのような内容であった。
今朝の読売一面は、読売独自の世論調査の結果、「集団的自衛権行使容認に71%が賛成する結果になった」というものである。2面ではこれを受けて、「本社世論調査 自民、公明説得に追い風」とある。私はいろいろな新聞を見てきたが、このように「政府が特定の新聞社の電話世論調査結果を連立与党説得の材料にする」ということをここまで高らかに歌っている新聞は読んだことがなかった。
読売新聞の報道は前回も書いたように、「事実を報道する」のではなく、どちらかと言うと「事実を作り出す」という世論醸成効果の方が色濃くでている。集団的自衛権で言えば、読売・産経はかなり「容認論」が強く出る結果になっており、一方で、朝日新聞・日経新聞・共同通信などはこれと異なる。そのなかでも読売は突出している。
読売の取材を受けてこの調査にコメントしていた某民主党代議士は、ツイッターで「この1年間で集団的自衛権に反対する世論が高まりつつあったが、この1ヶ月あまりで「限定行使論」容認がじわじわと広がり始めた」 という指摘について、「精確な認識」だと述べていたが、実はそうとも言えない面がある。読売の調査は9日から11日から全国の電話調査をしたとされている。読売は先月(4月11日-13日)にも同じように集団的自衛権についての調査をしている。
この結果によると、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」が59%、全面解禁は9%で、今月の調査は同じ項目で63%、全面解禁は8%の71%であるという。
ところが、朝日新聞の同月の調査、日経新聞の同月の調査、共同通信の同月の調査では、朝日(必要ない68.0%、必要17.0%)、日経(反対49.0%、賛成38.%)、共同(反対52・1%、賛成38・0%)となっている。共同通信は3月調査から5ポイント賛成が増加しているが、読売のように4月で64 %賛成、5月で71%賛成というほど多くはない。新聞社が違うとはいえ、わずか一カ月、それも連休を挟んだなかでこれだけの数字がいきなり変わるのは変だ。
「変だ変だ」と思って読売新聞の過去の報道を見ていくと、9日付けの首相動静では8日に連休中の欧州歴訪から帰国した安倍首相がその日の夜に、各社ではなく読売新聞の永原伸・政治部長と都内の焼肉屋で会食している。普段は各社政治部長と同時に会食する安倍首相が読売の政治部長だけと面会している。しかも、その会食日は、翌日から電話世論調査が始まる9日~11日の前日である。これはちょっと変だ。
あまり考えたくないが、調査開始の前日8日の段階で、首相サイドがTPP報道でもアメリカ側の意向を踏まえた先行報道をして政府に協調した読売政治部に対して「世論調査のテコ入れ(潤飾)」を依頼したのではないかと思いたくもなる。同社の世論調査は先月も同じ時期(第2週末)に実施されているからだ。いずれにせよ、現役首相と主要メディアの政治部長が情報交換と称してここまでおおっぴらに会食するという日本の状況は異常である。
上の仮説は私の単なる勘ぐりだが、それを差し引いても、一般的に新聞各社の電話世論調査には不可解な点が見られる。
(1)調査対象者の世帯はランダムに電話帳から抽出した世帯に自動的にRDDというシステムで電話をかけるやり方で行なっているはずなのに、出てくる結果はおおむね社論に沿った結果になる。
(2)調査対象世帯があまりにも少なすぎる(読売調査だと、1821世帯有権者のうち1,080人の回答)
(3)携帯電話保有者は対象になっていない。
(4)調査結果の生データが公開されていないので内容が正しいのか検証が不可能。
世論調査のエキスパートの谷岡一郎氏(谷岡郁子・みどりの風元代表の弟)という学者は『世論調査のウソ』(文春新書)という本の中で、「世論調査の結果は設問を変えるだけで自在に操作できる」としているが、それだけでは説明しにくい事態だと思う。
おそらく、今や大新聞の世論調査と言うものは、「今後、政府側が何を主要な政治課題としてやっていく」かを国民・読者に認知させるだけの「儀式」にすぎないと思われる。第三者が結果を検証しないまま、安易な電話世論調査で世論が製造されていくのである。国政選挙前後には各大学の政治学者が参加してのまともな世論調査も行われているが、この調査の段階では電話だけの調査で形成された「世論」による影響がかなり浸透しているだろう。だから、まともな世論調査自体が始まる前から結果がわかっているのである。
私には、先月のTPP、今月の集団的自衛権と読売新聞は「スクープ報道」や「世論調査」という手法を使って、まるでプロ野球の「予告先発投手」を告知するかのごとく、国民を一定の方向に誘導している風にすら見える。これは私の知人の使った言葉だが、大新聞の露骨な「予告先発報道」ほど恐ろしいものはない。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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