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フリーペーパー・ガリヤ顛末記(後) 
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2014年5月14日 07:00

<営業会議では社員にノルマを課すだけ>
博多区の自社ビルはすでに差し押さえられた ガリヤは毎朝、営業会議を実施していた。これなら、どこの企業にもある日常風景だ。ところが、2010年頃から長澤社長は、一方的に「今月は800万円必要です。この分の広告を取ってこないと、赤字になります」といった類のことしか言わなくなった。
 スタッフからはジリ貧の広告営業をカバーする対策として、「通販事業を連動させては」「ポスターなどの販促提案もしよう」など、前向きなアイデアも出されていた。
 しかし、長澤社長はまったく聞く耳を持たなかった。というか、「ページ全部を記事広告にして売っていきたい気持ちが強かったようだ」と、会議に参加していたスタッフは語る。

 破綻の1年ほど前からは、個々のスタッフに対し「あなたは◯◯万円分の広告を取ってこないと給料は出ません。できなかったら辞めてください」と、個人ノルマまで課すようになった。就活の現場で叫ばれる"ブラック企業"と、何ら変わらなくなったのだ。
 編集デザインを担当していた古参スタッフにも同じようなことを口走り、生産性がないことを理由に退職させた。こうなると、毎朝の会議に参加する十数名のスタッフも、一切口を閉ざしたままで、何も発言しなくなっていった。

 それでも、スタッフ募集は続けていたから、「雑誌をつくりたい」「取材がしたい」と、業界に憧れる若者は応募してきた。ただ、新人が入社したところで、長澤社長は念仏のように「広告を取ってこい」「今月は◯百万円必要だ」しか言わない。
 新人の研修でも「1日何十社を回り、1社に何度も顔を出せば、必ず広告は取れる」といった根性論を説くだけ。営業の仕事を知らない新人に「どうすれば広告が取れるか」といったノウハウの伝授は、一切なされなかった。

 新人を入社させれば、売上数字が膨らむと勘違い。数字が上がらない理由を何も分析できていない。これでは社員は育たないし、定着するはずもない。

 それでも、営業スタッフのなかには、月に100万円以上の売上を取る有能な社員が何人かいた。長澤社長は彼らに新人の面倒も見るように指示した。だが、編集専門のスタッフが退職したため、営業をしながら自ら記事も書かなければならなくなった。
 自分の仕事で手一杯なのだから、新人の教育どころの騒ぎではない。この頃、中堅社員の間では「いつ辞めようか」の会話で持ち切りだった。それほど、ガリヤを愛してきた者でさえ、完全に気持ちが離れていったのである。

 ガリヤ本誌には必ず編集や営業にあたるスタッフのクレジット表記がある。破綻前はそこにも社員名はなく、アルバイトスタッフの名前が書かれているだけ。それが社員の離散を象徴する。

<ビジネスについては全く素人だった>
 長澤社長は自社の経営が厳しさを増すのに、自ら立て直しにかかることはなかった。2012年、広告営業の経験を持つある人物が1年契約の管理職を引き受けた。
 さっそく過去の営業データを見たいと言うと、「そんなものはない」と代わりに見せられたのは請求書の控えだった。「この企業はなぜ出稿がなくなったのか」と尋ねても、返ってくるのは「何ででしょうね」。長澤社長には、戦略分析も戦術構築もないのである。

 12年頃は、長澤社長と債権者らしき人物が口論する場も目撃されている。ビルは差し押さえられ、事務所は2階フロアを間借りして運営された。発行部数18万部、読者企業4万3,000社も、毎月1階ロビーに運ばれてくる部数を見れば、その信憑性は薄かった。
 ガリヤは13年7月期に1億2,000万円を売り上げているが、この管理職は皮膚感覚でそんなことは「あり得ない」と証言する。自分にも未払いの給料があるが、「社員の方がかなりあるのでは」と危惧する。
 数字面は長澤社長がすべてを握り、スタッフには秘密主義を貫く。せっかく助言して聞き入れたかと思うと、翌日には反古にする。これでは誰も言う気にはなれない。

エルフもこの3月で37年の歴史に幕を降ろした フリーペーパーは女性向けのリセット、ハピマ、マーム。タブロイドの福岡ビィーキ、リビング福岡、クーポン誌の号外瓦版、月間いーみる。エンターテインメントの月間App、アイビジョンプレス。専門誌のAi-Vision、HappyHappy、手をつないで等々。福岡では競合激化に怯むことなく、創刊ラッシュが続いている。そんななかで、老舗のエルフはこの3月をもって休刊し、高齢者向けの「ぐらんざ」に資源を集中。アヴァンティは編集長が交替し、メサージュはガリヤのお株を奪ってトップ営業力をばく進中だ。

 ガリヤは競合誌の戦略すべてで後手に回った。長澤社長が営業会議でスタッフにハッパをかけたところで、決定打になるはずもない。なのに、創刊から続く猫のエッセイと動物殺処分反対の記事だけは誌面に残す。これでは編集長としての知見も疑われてしまう。
 経営者として、自社が置かれているビジネス環境を見通せない。だから、情報誌マーケットの動向を掴めず、戦略、戦術も立てられない。自ら財務状況をチェックしようせず、発展していた段階において人、モノ、カネの配分を計画的に行なわなかった。
 また、人材の採用から教育、幹部育成といった組織化を実現できず、降り掛かってきたさまざまなリスクへのマネジメント能力を欠いた。経営面でのあらゆる知識を習得しないため、リーダーシップを発揮できず、社内に対する説得力もない。
 すべて長澤社長に言えることだ。ビジネスについては、ずぶの素人。それがフリーペーパーガリヤの顛末で露呈した。

(※当記事は各関係者の証言をもとに作成しています)
(了)
【釼 英雄】

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