いずれにせよ、日本経済の先行きを考慮すれば、市場を維持、拡大するためにも海外からの人口受け入れは避けて通れない課題と言えよう。それに反対、抵抗するなら、日本人の出生率を上げるしかないだろう。
ただし、「言うは易く、行なうは難し」である。何しろ、日本では結婚、出産適齢期の人口の間で、結婚や出産、子育てに関心を持たない層が着実に増えているからだ。人口が維持されるためには、女性の合計特殊出生率が2以上でなければならないが、日本では1950年代から、一貫して低下している。2009年には1.37まで低下しており、人口を維持するために必要な数値の3分の2にも達していない。まさに危機的状況である。
08年に、日本で生まれた赤ん坊の数は、1948年と比べれば、40%に過ぎない。政府の予測では、2050年には明治維新直後の1870年代とほぼ同じ数の子どもしか生まれないという。今後30年を見通せば、日本における全人口の3分の1以上が、65歳を超える高齢者となることは確実である。
今でも世界で最も高齢化が進んでいると言われているが、実は、日本は「子どものいないスーパー高齢者社会」に向かって突き進んでいるわけだ。現在の日本人の平均年齢は45歳を超えている。2040年には、間違いなく平均年齢は55歳を超えているだろう。現在、1憶2,700万人の人口を抱える我が国だが、2040年においては、1億人にまで人口が減少すると言われ、生産人口が減ることの影響はより深刻になる。
なぜなら、労働人口と目される15歳~64歳の年齢層が30%近くも減少し、働き手、すなわち富を生み出す労働力がほとんど枯渇してしまうからである。モノを生産し外貨を稼がなくては、エネルギーも食料も輸入できない。こうした状況を抜本的に打開するには、日本人同士が結婚や子育てに対して、不安を抱かず、夢を持って取り組めるような、教育、雇用、福祉面での支援体制が欠かせないはずだ。
今日の日本社会では、いわゆる「パラサイト症候群」と呼ばれる現象が進行しており、いつまでも親元を離れず、自ら家庭を築くことを放棄している若者の数が増えている。1970年から09年の間、日本人の間では離婚件数が3倍にまで拡大した。離婚率が高いノルウェーやフィンランドなどスカンジナビア諸国より、日本の離婚率は高くなったのである。
同じ期間において、結婚の件数は3分の1以下に減少している。また、生涯独身という女性の数も急増。家族のありようが変化したといったレベルではない。もはや家族が成立しない社会になりつつあるといっても過言ではないだろう。
経済情勢と結婚の関係も深刻だ。05年に総務省が実施した「若者就業支援の現状と課題」と題する報告書には、20歳から34歳までの男性を対象に、年収別に配偶者のいる比率が明示されている。この統計を見ると、年収と配偶者の有無の間に歴然とした相関関係があることがわかる。年収が600万円以上の男性の場合には78.9%が配偶者を持っている。一方、250万から299万円の年収の場合には、配偶者のいる割合は42.3%、ましてや200万円以下の年収の場合には、20代においては10%前後、30代においても30%足らずである。
しかも、男性の就労形態別に配偶者の有無を調べて見ると、さらに愕然とさせられる。正社員の場合には、59.6%が配偶者を持っているが、非正規社員の場合には30%である。しかも、非正規のうち、「周辺フリーター」と呼ばれる、年間就業日数が99日以下、または週の労働時間が21時間以下の場合には、20代で数%、30代でも16.8%しか配偶者がいない。
現在、我が国では、就業者の3分の1が非正規雇用である。こうした現状から判断すれば、今後も日本社会では、結婚はもちろん、出産による新たな家族の誕生は極めて限られた数字で推移するであろうことは想像に難くない。先進国では、子どもの数が急激に増えることがないのは、共通した現象のようだ。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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