NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、福島第一原発事故を取り上げた漫画「美味しんぼ」(週刊ビッグコミックスピリッツ連載)の原作者雁屋哲氏の強い信念と行動力と、放射線被曝と健康被害の因果関係を否定する権力者を対比させて、主権者国民の行動を問う5月15日付の記事を紹介する。
放射線被ばくが健康被害をもたらすとしても、全員にその被害が生じるわけではない。ここが大事なところだ。大半の人々には目立った変化が生じなくても、変化が生じる人の比率が上昇することが問題なのだ。
「福島に行ったが鼻血が出なかった」と言う人が多くいたとしても、そのことは、「福島の放射能汚染が問題を引き起こしてはいない」ことを証明する根拠にはならない。問題は、影響が具体的に生じている人の比率が上昇することにある。
したがって、「鼻血が出る」人が現実に存在し、その比率が原発事故前よりも上昇しているなら、これは重大な事実である。その事実の確認は容易でない。
だが、現に、「鼻血が出た」人が存在することが事実であり、また、「鼻血が出る人はたくさんいる」との発言を示した人物が存在することが事実であるなら、その事実は、極めて重要な意味を持つ可能性を秘める。
言論の自由、出版の自由は、こうした「事実の記述」に制限をかける、弾圧することと矛盾する。
『美味しんぼ』の作者は、2年間にわたる福島での取材をもとに、この作者の目を通して得たものを、漫画作品として表出しているのであって、この言論活動に制限をかける、あるいは、弾圧することは、政治権力の行動として間違っている。
ウェブ上に、「総統閣下が「美味しんぼ」鼻血問題でお怒りのようです」と題する映像が配信されている。秀逸な作品であるので、拡散いただきたいと思う。
『美味しんぼ』作者の雁屋哲氏は、強い信念と行動力をもって対応している。これに対して、石原伸晃環境相が、安易な批判を展開したことが、結果的には、重要事実を日本中に流布させる契機になった。
石原氏は「鼻血と原発事故の因果関係は否定されている」との見解を示したが、この見解が正しくない。学者の一部が述べていることは、「低線量被ばくで鼻血がでることはない」という一つの「見解」であって、「実際に被ばくして鼻血が出た」という現実があるなら、その事実を否定することはできない。
昨日付の記事で紹介したチェルノブイリ原発事故関連でのアンケート調査結果を見る限り、「原発事故で鼻血を流す人が増えている」という現実は、否定しようがないように思われる。
「風評被害」という言葉が安易に用いられるが、「鼻血が出る」という現実があるなら、その事実をありのままに述べて生じる影響は、「風評被害」ではない。「事実」と「事実に基づく影響=被害」である。「旅館の予約がキャンセルされた」のは風評被害ではなく、「事実」に基く影響である。旅館は被害者であるが、加害者は雁屋哲氏ではない。加害者は原発事故を引き起こした国と東京電力である。旅館予約のキャンセルによって、旅館に被害が生じるのであれば、その被害を補償する責任は国と東京電力が負うべきであって、その負担を雁屋哲氏にかぶせようとすることは、論理のすり替えでしかない。
『院長の独り言』ブログの5月13日付記事「『美味しんぼ』大阪府が言論封殺行為」のコメント欄に紹介されていたが、「美味しんぼ」騒動が勃発すると、産経新聞が次の記事を掲載したことが紹介されている。
"低線量被曝が原因で鼻血が出ることは、科学的にはありえない"
※続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第864号「権力の恫喝に敢然と立ち向かう人々が国を救う」で。
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