どこの国でもおおよそ同じ傾向になっていると思うが、韓国でも大統領に期待する要素のなかで、経済の優先順位は高い。
30代で大手建設会社の社長に抜擢された李明博前大統領は、「経済大統領」と呼ばれるほど、いつの時代よりも大統領に対するその期待は高かった。日本では、韓国政府と企業が一丸となって海外プロジェクトを受注する過程で、その先頭に立って大統領がリーダシップを発揮する姿を羨ましいと思う向きもいた。しかし、大統領本人が大手企業出身のせいか、いつも大手企業を配慮した大手企業中心の政策を展開したため、韓国経済において大手企業と中小企業の格差がもっと開いてしまった弊害が発生したのも事実である。
その弊害をなくすために、今回の朴謹恵大統領は、経済民主化という名の下にいろいろな政策を推進している。李前大統領の在任時期とは打って変わって、今は大手企業に逆風が吹いている。国税庁の税務調査、循環出資の禁止、勤務時間の短縮、通常賃金の対象の拡大など、大手企業の負担増になる政策がオンパレードである。
それから財閥系の会長が3名も刑務所に行っている。韓国の経営者にとって一番怖いのは、「背任罪」のようだ。なぜ怖いかと言うと、この背任罪というのは曲者で、どのようなケースでも罪をかけようとすると、これから逃れられないと言う点である。
2012年に、韓国屈指の財閥の会長が告訴されたが、当初は裏金のことで内部告発で告訴されたが、調べてもそのような容疑がないので、別の背任罪が適用されたという。新聞報道によると、13回にわたって37カ所の差し押さえと捜索を受け、役職員350名も呼び出されて取り調べに応じたとのことだ。調べても、本人の横領や罪が見つからなかったので、結局は系列会社のリストラを承認して背任になるという罪で、実刑を言い渡されたとのことだ。
12年度に、ある大手建設会社は倒産の崖っぷちに立たされた。建設の景気も悪かったし、景気が回復する兆しもなかったので、グループではその建設会社を整理しようとした。
ところが、債権者である銀行と株主が猛反発をした。大手企業が社会的な責任を果たさず、自分だけのために逃げようとしているという非難であった。しかし、このケースもある意味では背任罪に当たる。系列企業を整理しようとすると、社会的な責任を果たさないと非難されるし、整理しないと、オーナーは厳密な意味では背任罪になる可能性のある皮肉な現実である。
韓国の大手企業はどれほど強いか――。
08年度の金融危機以降、ウォン安のおかげで大躍進をしたのも事実である。資産も売上高も直近の5年間で2倍近くなっている。
しかし、ここには落とし穴がある。実は、三星や現代自動車などの上位の4大財閥以外の会社は、それほどの成果を挙げていない。12年度の30大グループの当期純利益は合計で53.1兆ウォンであるが、このなかで10大グループの当期純利益は44.8兆ウォンで、全体の84%を占めている。
今後、鉄鋼産業は供給過剰が予想されるし、韓国の屋台骨である石油化学産業は、後発国と産油国が自国内での設備投資に力を入れており、展望が明るくない。とくにアメリカのシェールガス革命は、アメリカの産業競争力を高める要因になり、もう1つの大きな脅威になる。さらには、絶好調であった携帯電話事業も、今や限界に達しつつあるという悲観論が出始めている。
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