オバマ訪日で見えた日米関係の今後と
あるべき「文装的武備」という日本の安全保障
協商(きょうしょう)とは、フランス語のententeの訳で、複数の国家間において特定の問題について調整を行ない、協調・協力を取り決めることである。同盟との違いは、形式面においては、条約、あるいは協定・議定書・宣言・交換公文などといった公式文書によって取り決められるのが同盟、公式文書を前提としない非公式な国際的合意を協商と言うとされている。(ウィキペディアより)
日中協商という考えの提唱者は、五百旗頭真(いおきべまこと)・元防衛大学校長である。これについて五百旗頭は朝日新聞のシンポジウムで次のように言っている。
大きく言いますと、大事なことは、日米同盟プラス日中協商だ。「entente」と外交史の言葉で言いますが、同盟は日米間ですが、日中の間では具体的な共同利益についての合意をして、それをコアにして、両国は戦争をするのではなく、協力して同行するのだというオーラを漂わせていく、そういう協商という技法を日中間には持つべきだ。東シナ海での資源の問題で大きな共同開発の枠組みができれば、それが進むだろうと思います。
つまり、後藤新平のいう文装的武備の路線と同じことである。日米同盟(日米安全保障条約)をそのまま維持し、同時に中国との領土問題や経済問題での了解を作る。この間、日本は東南アジア、欧州、アフリカなどの国々と経済的に関係を深めていく。つまり、中国とは第一次安倍政権の「戦略的互恵関係」に戻ることができる。
繰り返すが、日本のような超大国の周辺国は、大国の間の駆け引きのコマでしかないのである。ベトナムやカンボジアが将棋の「歩」だとしたら、日本はそれよりはマシなポジションだろうが、決して米中のような「王将」ではない。このことを踏まえると、超大国同士に挟まれても生き残るための自主的な外交をするべきである。そのためにはアメリカ一辺倒では駄目だ。
同時に、日本では適度の愛国心は必要だが、国際社会(=今は国際連合=連合国)に背を向けてまでナショナリズムを押し通そうとするのはやめるべきだ。総理大臣の靖国神社参拝をあえて強行することは日本の「愛国ビジネス」(反中国・反韓国の書籍が大量に出版されている)は儲かるかもしれないが、国民全体から見て何の得(とく)にもならない。『東洋経済』を発刊した石橋湛山や名ジャーナリストの清沢洌(きよさわきよし)も言っていることだが、愛国心はそろばんに基づく事が必要である。そのナショナリズムを推し進めることが、日本にとって割に合うのか、ということを考えなければならない。
例えば、尖閣諸島は確かに日本の領土かも知れないが、それをあえて強く主張することが日本にとって合理的な判断か。特定の日米の防衛産業や自衛隊にとっては予算獲得の口実になるので歓迎するだろうが、日本全体から見れば何の得にもならない。アメリカは無人の岩礁を守るために軍隊を派遣することはありえない。
尖閣問題は棚上げの「確認」をしてしまえばいいのに、これを日本の菅直人政権が閣議決定で「日中には領土問題は存在しない」という答弁書を発足早々に出したことで中国を刺激して、あの尖閣漁船衝突事件になった。
確かに中国は1992年に一方的に領海法を設定して、過去の1970年代の「尖閣の日中間棚上げ」を一方的に破った。しかし、ここは日本が再び大きく譲るべきだ。沖縄が中国の手に落ちるということではないのだから、譲っても実質的な損害は尖閣海域の周辺漁民の損失が出る程度で、これは政府が補償すれば済むことである。愛国心は金銭換算出来る範囲で主張するべきだ。
<日本の外交に必要な5つのポイント>
ここまで述べてきたことを踏まえて、最後に5つのポイントとして日本の政治家・外交官が踏まえるべき外交戦略の要諦は次のとおりになる。
(1)大国間の地政学アプローチの落とし穴も認識し、冷静に国際情勢を認識すること
(2)アメリカ一辺倒ではなくバランスのとれた人材育成を行ない登用すること
(3)割にならない「愛国心」は主張せず、中国とは協商関係を作ること
(4)国民のナショナリズムを煽り立てるような政治家のスタンドプレーは避けること(例:尖閣上陸など一部の政治家の行動や総理・閣僚の靖国神社参拝)
(5)地球儀外交を継続し、日本と利害を共有する国(=友人)を増やすことで中国の台頭をけん制する
いずれも対米一辺倒の外交を大転換する必要がある。かなり難しいが、この正攻法以外に手段はない。今のままでは日本は米中の大国間ゲームのエジキになるだろう。日本に重要なのは、日米同盟の継続と日中協商の強化、そして日本国内のナショナリズムを煽らないこと。後藤新平の主張した「文装的武備」を徹底すること。これが肝要である。
≪ (後・5) |
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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