<特異な金融スキャンダル>
誰もが予期していなかった無罪判決だった。商工ローン大手SFCG(旧商工ファンド)が経営破綻前に資産を隠したとされる事件で、東京地裁は4月30日、元社長兼会長大島健伸被告(66)の資産隠しを認めず、民事再生法違反(詐欺再生)と会社法違反(特別背任)について無罪とする判決を言い渡した。東京地検は5月14日、「地裁判決を覆すのは困難」と判断して控訴を断念した。これで無罪が確定した。
地裁はこの判決で、虚偽の債権譲渡登記をした電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪については有罪と判断し、懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡している。
史上空前の資産隠しと大騒ぎになったSFCG事件は無罪が確定し、司法が資産隠しにお墨付きを与えた格好だ。お咎めなしの審判に、釈然としない向きは多かろう。
<SFCGと共倒れした日本振興銀行>
大島被告の無罪判決を聞いて、2年前の有罪判決を思い出した。
経営破綻した日本振興銀行の検査妨害事件で、東京地裁は2012年3月16日、銀行法違反(検査忌避)罪に問われた元会長、木村剛被告に、「積極的かつ主導的に犯行に関与しており、刑事事件は重い」として、懲役1年、執行猶予3年を言い渡した。控訴せず有罪が確定した。
2つの事件で、1人は、小泉純一郎政権下で竹中平蔵金融相のブレーンとして銀行の不良債権処理に辣腕を振るった木村剛元会長。もう1人は、商工ローンというけもの道を歩いてきた「ザ・金貸し」と称された金融アウトサイダーの大島健伸元会長。
一見、無関係に見える2人は短い期間だが接点があった。日本振興銀行は10年9月10日、史上初のペイオフが発令され経営が破綻した。その引き金となったのが、大島元会長が率いるSFCGの倒産だった。大島元会長の資産隠しの片棒を担いでいたのだ。
<倒産直前に2,670億円を親族会社に譲渡>
SFCGは1978年、大島元会長が商工ファンドとして創業し、2002年に社名変更した。大島氏は商工ローンのノウハウを学ぶため日栄(現・ロプロ)で修業。「腎臓1個300万円で売れ、目ん玉売れ」で悪名を轟かせた日栄の恫喝取り立ては見習わなかった。彼の言葉を使えば、「法律を使ったスマートな取り立て」だ。
しかし、グレーゾーン金利を巡る最高裁判決により、商工ローンは完全に息の根を止められた。過払い利息の返還請求急増を受けて経営が悪化。2009年2月に民事再生手続きの開始を申し立てた。だが、あまりの乱脈経営に、東京地裁は09年3月再生手続きを廃止、破産手続きに移行した。負債総額は3,380億円だった。
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