最後に、九州内の3政令指定都市の市債状況を概観し、見えてきた問題点をあげる。
これまでみてきた九州7県については、おおむね共通して県債残高は増加傾向にあり、そのなかでも臨時財政対策債(以下、臨財債)の残高と県債残高に占める割合の上昇率が高いといえる状況であった。政令指定都市については、熊本市が2012年4月に指定されたばかりで、その後の財政状況に影響が出ていると予想されるが、ここでは決算の出ている2012年度までの3年間を扱う。
福岡市の2012年度の市債残高は2兆4,508億円で、前年度比187億円減、0.8%減となっている。臨財債の残高は2,594億円(前年度比334億円増、1.4%増)で、市債残高の10.6%を占める。1人当たりの市債残高は164.3万円。
北九州市の市債残高は9,703億円で、前年度比243億円増で、2.6%増となっている。うち臨財債の残高は1,975億円(前年度比246億円増、14.2%増)、市債残高の20.4%を占める。1人当たりの市債残高は99.8万円。
熊本市の市債残高は3,177億円で、前年度比124億円増、4.1%増。臨財債の残高は911億円(前年度比168億円増、22.6%増)で、28.7%を占める。1人あたりの市債残高は43.0万円。
県とは様相が異なり、各政令指定都市によって状況が大きく異なっているが、やはりここでも臨財債の残高、そしてその占める割合が増加している状況は共通している。福岡市では、市債残高が減少しており、さらに人口増加によって、市民1人当たりの市債残高も減少傾向にあるのだが、それでも依然市民1人あたりの負担は他自治体よりも圧倒的に高い水準であり、予断を許さない状況である。
これまで、九州7県、3政令指定都市の地方債の状況をみてきたが、総じて臨財債への依存度が高まっていることがわかる。一つの問題は、その臨財債が地方債でありながら、自治体に入るカネとしては一般財源になるということだ。借金として借りたお金だけれども、何に使おうが自由なカネということであり、これが公共の利益とは程遠い用途にあてられることも十分に考えられるわけである。果たして必要な事業や用途にお金が使われているのか、自治体の歳出により一層の注意が必要になってくる。
臨財債にまつわるもう1つの問題は、発行責任について自治体間で認識に開きがあるということだ。「元はといえば地方交付税でもらっていた分のカネ」「国が返済してくれる」という自治体側の認識が、「臨財債を除いた県債残高」や「実質的な県債残高」という表現に垣間見える。しかし、国が指定しているのはあくまで「発行可能額」であって、発行するかしないか、発行するならばいくら発行するのかは、地方自治体の責任なのである。原資が不足した国が、地方自治体に借金を押し付けることで窮状を凌いでいることには違いがないが、その借金の責任を負っていることに自覚がない自治体がどうも多いようだ。もちろん、その借金は私たち県民、市民にとって他人事ではない。
これまで、主に臨財債の存在が県債残高を押し上げている状況をみてきたが、さらなる問題は、借金自体が増大しているのと同時に、分母となる人口自体も減少していることだ。このごろ、出生率低下による人口減少問題が話題となっており、50年後の人口がいまの3分の2にあたる8,700万人ほどに減少し、約4割が65歳以上の高齢者となることや、都市圏への人口集中が加速して、全国の約半分の地方自治体が消滅してしまう可能性が高いことなどが取り沙汰されている。去年人口が150万人を突破し、今後も人口が増加する見通しのある福岡市においても例外ではなく、国立社会保障・人口問題研究所によれば、20年後には減少傾向へと転じる。たとえ借金が横ばい、あるいは減少したとしても、私たちの負担自体はむしろ増えていく一方、という展開は大いに予測されるのである。
真綿ですでに首を締め始められていることに気がついただろうか。地方自治体の借金は私たち一人ひとりの負担であり、ひいては責任まで負っていることになる。そのお金は何のために集められ、何に使われているのか。監視の目を光らさなくては、暗い将来が待つのみである。
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