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老いた団地とそこに住む高齢者(後) 大さんのシニア・リポート第21回
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2014年5月23日 07:00

多摩ニュータウン永山地区にあるコミュニティ施設「福祉亭」 取材時、諏訪・永山地区の団地では建て替え問題が浮上していた。しかし、前述のような区分所有者の高齢化、金銭的問題、煩雑さ、諦観、住民感情などが複雑に絡み合って建て替えができない状態が続いていた。その諏訪地区で昨秋、団地の一部が高層マンションに立て替えられた。子育て中の若い夫婦も数多く入居し、40年前の賑やかさを取り戻し、以前から住む高齢者と若い新住民とが互いに共助し合える街づくりを期待する声も出始めている。耐震基準を満たしていない集合住宅での建て替えが叶った稀有な例である。
 同紙上で明海大学不動産学部齊藤広子教授が次のように指摘する(以下、要旨)。

 マンションの高齢化について、「管理組合の役員のなり手が減り、マンション維持のための修繕や耐震性などを高める改修の費用負担が難しい」「耐震化には費用がかかり、賛成しない住民に売り渡しを求める仕組みもない」「建て替えは容積を大きくして増やした住戸を販売しないと負担が大きい。解消(解体)は解体費が土地の売却代を上回る場合がある」「建築時の長期修繕計画を見直すこと。修繕積立金の値上げは、生活と資産価値を守るために必要だという説明の積み重ねが必要」「専門家に入ってもらい、数字を示して説明すると納得が得られやすい」「マンションを公共財ととらえ、街づくりと一緒に考えるしかない」と話した。さらに「国交省は防災など地域に役立つことを条件に、建て替え時の容積率緩和を認める法改正を検討している」という。最後に「管理組合を活性化させる条例が求められる」「平時のコミュニティーづくりがいざという時に生きる」と結んだ。

 しかし、「管理組合活性化のための条例」「平時のコミュニティづくり」に関して、高齢住民が多く住む耐震不足マンションでは「管理組合活性化条例」を設けても、有効に活用できるとは考えにくい。また、「平時のコミュニティづくり」は、高齢者が多く住む団地故、新しくコミュニティを作るということは容易ではない。

 国土交通省によると、建て替えを実現したマンションは、平成25年4月時点で183件、約1万4,000戸。旧耐震基準物件のわずか1%にすぎない。費用負担が最大の課題だ。これから先の生活費を考えると、建て替え問題の優先順位は低くならざるを得ない。ところがそれを乗り越えようとしている団地がある。

「サロン幸福亭」があるUR賃貸住宅 同紙平成26年4月19日には、「建て替え合意へ一歩ずつ」というタイトルで、「改修より建て替え」を模索する団地を紹介している。千葉県船橋市にある「若松二丁目分譲住宅」がそれだ。URが45年前の昭和44年に分譲した大規模団地で、5階建ての中低層団地。エレベータはない。この団地では、平成19年に耐震性などを心配する住民が建て替え検討を要望し、NPO法人「マンション再生なび」の助言を受けながら建物の診断や住民説明会、アンケートなどを重ねてきたという実績がある。市の高さ制限が地上31メートル、10階建てまでという壁があるが、地上45メートル、14階建てまで緩和するよう交渉中である。

 この先、区分所有法に基づく建て替え決議(全体の5分の4以上、各棟の3分の2以上の賛成で成立)という高いハードルが待ち構えている。反対し続ける住民には、催告を経て所有権の売渡を請求できることになる。さらにマンション建て替え円滑化法に基づいて「建て替え組合」を設立。設計や工事の発注、権利変換。取得費用の捻出、仮住まい探しと家賃負担。引っ越し、そして新生活のスタートと慣れない生活が続く。高齢住民がこれを乗り切ることは至難の業だ。住民全体が問題を共有し合い、助け合うという精神と絆が強く求められる。その意味で、前述の齊藤広子氏の提言、「平時のコミュニティづくり」にも納得がいく。

 「サロン幸福亭」のあるUR賃貸住宅、「紹介可能物件数3」などというみみっちい規定を捨て、「開き室をすべて提示し、選んでいただく方法」に切り替えるべきだ。何より「お客様は神様」なのだから。同教授の提案する集合住宅を「公共財」ととらえ、街づくりと一緒に考えるべきだ。その先に、高齢者が安心して住める集合住宅の未来が垣間見えてくると期待したい。次回は、解消(解体)を拒否し、修繕のみで豊かに暮らす築54年の大規模団地を紹介しつつ、高齢者の抱えている居住問題や生死感などにも言及してみたい。

(了)

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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