<活気のあった創業期が戻ってきた>
冒頭に記したコンビニは当時、アメリカ資本であった。開業する際、「アメリカには袋詰めの氷が普通に売られているが、日本にはまだない」という運営会社社長の一声で設置が決まり、取り扱われた。現在ではコンビニの主力商品として、どこの店舗にも必ずと言っていいほど置いてある。そのコンビニが扱っているコーヒーは1杯100円。当初の販売目標は1店舗1日60杯であったが、ブームになるにつれて1日87杯と増え、現在は97杯が平均値となった。九州では約100杯以上も売れ、当初の計画の数倍のペースで売れている。
同社は、このコンビニのアイスコーヒーのカップ詰めの氷を供給している。昨夏は売れに売れまくり、一時製造が追いつかないことがあるほどになった。「これは嬉しい悲鳴でした。昨夏は営業、事務方など関係なく工場作業を手伝い、ときにはトラックを走らせました。24時間365日フル稼働しても追い付かず、一時、商品が品薄となってしまいました。今年は得意先の企業さまのご期待に応えるため、我々としても商品供給を切らさないためにも工場増設に踏み切りました」と同社の小久保龍平社長は語る。小久保社長曰く、今、同社はアベノミクスならぬ『カフェノミクス』経済効果により、いまだ経験したことのない領域に突入しようとしているのである。
従来、気温が上がる5月のゴールデンウィークの時期を境に売れ始め、夏場に販売のピークを迎えていた。そのため、商品は冬場につくり、倉庫でストックしていた商品を夏場に売るという流れがルーティーン化していたが、カフェノミクスにより、繁忙期が1年中続くことになった。現在は、豆腐や牛乳などの日配食品メーカーと同じ動きを取り、毎日商品を供給可能な体制を取っている。商品回転率が良くなったことで、物事の考え方を変えてしまわないことには対応ができなくなったのだ。
これにより同社の取引先とも、より密な動きを取るようになった。工場の設備を担当する企業に、昨年感謝状を贈った。取引先との取引額も今まで以上に増え、工場増設の際には従業員数を2倍に増やした。さらに、コンビニ向け取引が成功したおかげで、スーパーマーケットからベーカリー部門でアイスコーヒーを売りたいとの相談を打診されているほか、パチンコ店からも相談が来ている。まさにコンビニのカフェブームから波及し、さまざまな分野に広がりを見せつつある。
現在の同社を率いるのは、本社の小久保歓社長の長男である龍平氏。3年前に社長に就任した。龍平氏は本社の常務取締役から2012年12月、代表権のある副社長に昇格。両社の役員を兼任する。「ちょうどお取引先のコンビニのコーヒーがブレイクする前でした。就任直後にこのような事態に直面してしまいましたが、社内は活気があって、昔からいる社員の方々は40年前の創業期のような雰囲気になっていると言われます」と龍平社長は語る。
同社では毎朝、朝礼で社是を読み上げ、1日の行動がスタートする。「和と誠の心、そして創造、開拓、奉仕の精神で正道を歩もう」、社員は決断に困ったときは、何が会社にとって適切な判断なのかを考えたうえで、正道を歩むことを軸にして答えを出す。この社是こそが、従業員同士をつなぐキーワードにもなっている。
昨夏の超繁忙期を経て、今年4月中旬に新工場が稼働するが、小久保社長によれば、最近、工場メンバーのやる気がみなぎっているようだ。工場の規模が大きくなり、ただ仕事をこなすという考え方から、「考えながら仕事をする」という風土が浸透しつつあるという。目的が明確化されたことで、社内環境が良くなっている。「これから社内を本格的に変えていくという雰囲気を自分でも感じることができる。業務の見直しをやりながら、夏場のピークに備えています」(小久保社長)。いまだ陰りの見えないカフェノミクス経済効果が今後、どのような展開を見せるのか、温かく見守っていきたい。
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<COMPANY INFORMATION>
代 表:小久保 龍平
所在地:大分県日田市三ノ宮町2-1798
設 立:1996年8月
資本金:1,000万円
TEL:0973-27-7369
URL:http://www.kokuboice.co.jp/
<PRESIDENT PROFILE>
小久保 龍平(こくぼ・りゅうへい)
1976年、千葉県生まれ。近畿大学九州工学部経営工学科を卒業後、2000年4月に高知の食品卸「旭食品」近畿支社に入社。その後、02年4月に小久保製氷冷蔵(株)に入社後、常務取締役を経て12年12月に代表取締役副社長に就任。(株)九州コクボでは11年6月に社長に就任した。趣味はゴルフ。
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