出版大手のKADOKAWAとインターネット動画投稿サイト「ニコニコ動画」を運営するドワンゴが経営統合する。経営統合の狙いは、KADOKAWAのオーナーである角川歴彦(つぐひこ)会長(70)が、ドワンゴの川上量生(のぶお)会長(45)という後継者を得ることにある。
統合ニュースを耳にしたとき、こんな感想をもった。元社長の角川春樹(はるき)氏(72)との骨肉の争いがトラウマになっている。歴彦氏はお家騒動を繰り返さないために、脱同族に踏み切ったのだ、と。
<統合は既定路線だ>
10月1日に誕生する持ち株会社KADOKAWA-DWANGOは資本金200億円、資本準備金200億円。代表取締役会長に川上量生氏、代表取締役社長にKADOKAWA前社長で取締役相談役の佐藤辰男氏(61)が就く。角川歴彦氏は取締役相談役に退く。
両社の統合を意外に思う人はいない。既定路線であるからだ。2010年に両社は業務提携、11年に資本提携した。KADOKAWAはドワンゴの12.2%の株式を保有して、創業者の川上氏に次ぐ第2位の株主。ドワンゴはKADOKAWAの2.6%の株式を保有する第9位の株主だ。ドワンゴの川上氏がKADOKAWAの、KADOKAWAの佐藤氏がドワンゴの社外取締役に就いている。両社は資本、役員の両面でダッグを組んでいた。
<クール革命の担い手という自負>
角川歴彦氏は2010年『クラウド時代と〈クール革命〉』を角川新書で著した。今、急速なIT技術と情報環境の変化が加速している。本格的なクラウド時代を迎え、アニメーションに代表される「クール」(かっこいい)と大衆に賞賛されるモノや出来事が社会を変革し始めている。これが「クール革命」だ。「クラウド・コンピューティングによって、2014年に日本の産業構造が大激変する」と予測している。
KADOKAWAはアニメやゲームなどのサブカルチャーに強く海外にファンが強い。クール革命の重要な担い手だ。ネットによる情報発信力を高めれば、日本の魅力を世界に訴えることができる。
そのために必要なネット技術をドワンゴに求めた。ドワンゴが運営するニコニコ動画の会員は4,000万人、有料のプレミアム会員も223万人いる(3月末時点)。クラウドやスマートフォンなどの新技術が登場した今は、相乗効果を生み出せると判断した。
<背中を押した紙媒体ビジネスの凋落>
KADOKAWAの2014年3月期の連結決算は売上高が前年に比べて6.5%減の1,511億円、営業利益は同22.4%減の61億円と減収・減益。売上の4割が書籍、2割が雑誌関連で、ネット事業は全体の1割強にすぎない。紙媒体依存度が高く、このままではジリ貧に陥るのは避けられない。そんな危機感が背中を押した。
一方、ドワンゴの14年9月期の連結決算は、売上高が17.5%増の422億円、営業利益が48.5%増の31億円と増収・増益の見込み。
統合によって売上高が2,000億円、営業利益が100億円規模の出版とネットの融合企業が誕生する。自著で予測したように、2014年の産業構造の大激変の口火を切ったわけだ。
角川歴彦氏が統合にこだわった最大の理由は、川上量生氏を後継者にすることにあった。これから成長を遂げるには紙媒体出身者ではダメ。ネットに強い若き経営者に託すしかない。角川氏は、3年前から川上氏に経営統合を持ちかけていたという。早い段階で、川上氏に白羽の矢を立てていたのである。
川上氏は京都大学工学部卒。ソフトウエア専門商社を経て1997年にドワンゴを設立。従来型携帯電話の着メロや着うたの事業をヒットさせ、ニコニコ動画で会社を急成長させた。
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