中洲健全化への課題をテーマに『中洲の不動産業者』を取材している。今回、小生が訪れたのは橋本不動産。現代表の吉永剛氏は40代前半の若さだが、会社自体は40年以上続いている。
「1週間に一度は、4、5軒ほどお客様の店に顔を出しています」という吉永氏。当初、酒販業者に勤めていたが、先代(吉永氏の父)の健康上の理由もあり、23歳で不動産業の仕事を始めた。取り扱うビルは、川丈ビルや多門ビル、タワービルなど、知る人ぞ知る老舗を含めて250軒のスナックが営業中である。
さすがに「毎日の店回りは身がもちませんよ」と苦笑するが、「エアコンの水漏れなど空調関係のトラブルで夏場はほぼ毎日出動です。業者の修繕が遅れる場合でも、とりあえず顔を出します」という。きちんと対応している姿勢を見せて不安を少しでも和らげる。先代が築き上げた信頼関係を守るため、吉永氏は日夜、街を走り回っている。
屋主や店子のために、吉永氏は、物件の仲介に際して慎重な姿勢を崩さない。「怪しいと思ったら貸しません」と断言する吉永氏。その判断基準の1つは、店舗経営の明確なビジョンの有無。吉永氏によると、とりあえず中洲で場所をおさえたいという客に限って、利用目的があやふやで「店の広さは10~20坪でいい」などと、物件に求める条件がアバウトだという。
約1,300軒の飲み屋がひしめく中洲において、「借りられるなら店の家賃や広さはどうでもいい」とはならない。たとえ、〝ウラ〟がなかったとしても、そんな経営者の店が長続きすることはないだろう。「雑居ビルですから、周りの方にご迷惑をかけるところを入れれば、それは仲介したところの責任です」と、騒いで周囲の店に迷惑をかけるようなところにもテナントを貸すことはない。
地元の不動産業者として中洲を見続けている吉永氏は、現在における中洲の課題として、『経営者の高齢化による閉店』をあげる。昔に比べて、店で働く人たちの独立志向が乏しく、後継者がなく、そのまま閉店というケースが増えている。「1度引退したけど、急にやることがなくなってヒマになり、また復帰された方もいますが、みんながそうはいきません」(吉永氏)。
生涯現役ママは頼もしいが、若い世代の開業がなければ、中洲全体が廃れるのは時間の問題。吉永氏の担当物件では、「独立から5、6年で2店舗経営している30代前半のママもいます」という明るい話題もある。
老舗不動産屋の2代目は、若い人たちに中洲で商売を始めてもらうためにも、まちの健全化を損なうような店は入れてはいけないと語る。「中洲のイメージ悪化が全体の集客を落とし、人の往来が少なくなれば、空いたテナントに違法性の高い店が入ります。そうした悪循環に陥ることだけは絶対に避けなければなりません」(吉永氏)。
それは先代から受け継いだ中洲における不動産仲介業の鉄則だ。戦後の混乱期から、『西日本一の歓楽街』が形成されるまでの間、その考え方が一定の役割を果たしてきた。それはこれからも変わらないだろう。
<プロフィール>
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。海上自衛隊、雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、働くお父さんたちの「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポート。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の風俗関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲に"ほぼ毎日"出没している。
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