夜の商売が主体の歓楽街では、継続的に健全化の取り組みが求められる。とくに中洲のように約1,900軒もの店舗がひしめき合うところでは、それぞれの店の営業実態を掌握することは不可能に近い。目が行き届きにくければ、違法性の高い商売が入り込める余地ができてしまう。それゆえ、中洲における商売の入口部分をチェックする不動産業者の役割は大きい。
中洲のエレガンスビル、Fビル、Uビルの管理・仲介を行なっている(有)中洲Fビルの右近秀章代表取締役は、元は中洲市場の鮮魚店。子どもの頃から博多祇園山笠の中洲流に参加し、現在は中洲2丁目の町内会長を務める根っからの中洲っ子だ。
右近社長は、地元人として中洲の健全化に熱心に取り組む一方、本業では「良いビルには良い人が集まる」という信念を持つ。テナントビルの設計に関しては、自らメジャーを持って、東京の銀座のビルを一軒一軒飲み回り、大勢の客を集めているビルを研究したという。
その研究の成果が、管理を行なっている各ビルで実現されている。まず、多くの人が頻繁に出入りすることを前提に、1階のエントランス部分を吹き抜けにし、広々としたスペースを設けている。また、人が余裕をもってすれ違うことができるように通路を広くし、天井の高さにも気を配る。
配管の仕組みにもこだわりがある。「横の配管よりもつまりにくい縦の配管にしています。万が一、つまったとしても、横よりも縦につないだほうが、迷惑をおかけするテナントが少ないこともあります」と右近社長。同社が管理するビルでは、水漏れなどの事故が過去1回も発生していないと胸を張る。
中洲特有の話だと思うが、つまりの原因がおしぼりだったり、ハイヒールやグラスだったりということもあるという。その理由はともかく、排水のつまりは、水漏れや悪臭につながる。古いテナントビルに漂う臭いは、コンクリートに染み込んだ漏水が原因。さすがに悪臭は接客商売にとって致命的。テナントの借り手が減れば、人の出入りも減る。そこでなんとか貸そうと家賃を下げれば、入る店舗の質が下がる。また、メンテを行なう費用が捻出できない。この悪循環のなかで、違法性の高いビジネスが入り込む隙間が広がっていくのである。
右近社長が心がける中洲の健全化を意識した良いビルづくりは、テナントの高い定着率にもつながっている。新たに手がけるのは今年11月竣工予定の「プラート中洲」の4~8階だ。各フロア約80坪の新テナントビルは飲食店がメイン。立地は明治通り沿いで、天神から中洲への入口部分の角地であり、新たなランドマークとなる可能性を秘めている。
<プロフィール>
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。海上自衛隊、雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、働くお父さんたちの「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポート。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の風俗関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲に"ほぼ毎日"出没している。
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