新国立競技場の建設をめぐる批判の声が止まらない。そうしたなか、基本設計概要案が2カ月遅れとなる5月28日に、第5回国立競技場将来構想有識者会議で発表されることがわかった。これにより、具体的に機能や構造から新国立競技場が必要か検証できるようになるはずだ。一方で、建て替えではなく、改修でも十分に対応できるという意見も出ている。改修案は、なぜ消えたのか。
<既存不適格は理由になるか>
伊東豊雄氏が提案した改修案は、いたってシンプルだ。東に位置する聖火台のあるバックスタンドを残し、西側のメインスタンドを2段ないし3段に増設するというもの。
そもそも、今回の新国立競技場は「常時8万人収容」が焦点の1つになっている。現国立競技場の収容人数は5万4,000人。あと2万6,000人分をどう増やすか。改修案では、既存のバックスタンドを含め3万9,000人分残して耐震補強し、メインスタンドを撤去して新たに4万1,000人の席を新設する。新設部分には屋根を付けても、高さは51m(新国立競技場は70m)で抑えられる。
ここで問題となるのが、レーン数とサブトラックだ。現国立競技場は8レーンしかなく、国際基準に合わないとして9レーン必要とされている。また、サブトラックも、本来は常設しなければ陸上競技場としての役割を果たせない。新国立競技場計画では、仮設か常設かはっきりしないままだが、改修案なら南側に新設できるという。
日本スポーツ振興センター(JSC)が改修案を渋る理由の1つに、「バックスタンドの一部が都道上空にはみ出していることにより、既存不適格建築物に該当すること、道路占用状態という2つの問題が生じている」ことがある。
さらにJSCは、「既存不適格部分を改修することは、都道に張り出している部分を解体撤去することになり、収容人数が減少」し、さらに「すり鉢状の美しい形状が不正形なものとなり、施設の景観が損なわれる」ため、改修は行なわないとする。
既存不適格とは、建築当時は適法だったが、その後の法改正などで現行法に則して不適格な部分が生じたもの。増築や建て替えなどを行なう際には現行法に適合するよう建築する必要がある。また、道路占用とは、道路上や上空、地下に一定の施設を設置し、道路を継続して使用する状態のこと。たとえば、電気・電話・ガス・上下水道など、道路の地下への管路埋設や、道路上空の看板や店舗の日除けなどがこれに該当する。
現国立競技場の場合、1964年にバックスタンドを増築したことで、都道に一部がはみ出して道路占用状態になったという。ただ、この50年間、都道上空のスタンド面積に相当する道路占用料を東京都に支払うことで、とくに問題は発生していない。
JSCの言い分だけでは、「なぜ改修から建て替えになったのか」という問いに対する答えとしては、不十分に思える。なぜなら、2010年3月、国立競技場耐震改修基本計画の策定業務を久米設計に発注していたからだ。
つまり、この時点では「大規模改修はできない」という結論には、まだ至っていなかったと見られる。どこで建て替えに潮目が変わったのかは後ほど検証するとして、まずは久米設計が耐震改修基本計画の中身を詳細に見てみよう。
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