厚生労働省の研究会は5月27日、障がい者の雇用における差別禁止・合理的配慮に関する指針案を示した。改正障害者雇用促進法が障害者に対する差別禁止と合理的配慮を義務づけたため、指針を策定するもの。指針案の中では、精神障がい者に対しては、「できるだけ静かな場所で休憩できるようにすること」などの具体例を示した。背景には、障害者雇用、とくに精神障がい者の雇用促進の必要性がある。
厚生労働省が発表した2013年度障がい者の職業紹介状況(5月14日)によれば、ハローワークを通じた障がい者の就職件数が4年連続で過去最高を更新した。そのなかで、厚労省は「精神障がい者の就職件数が身体障がい者の就職件数を初めて上回る」と、ことさらに強調している。しかし、精神障がい者の雇用促進には課題がある。
厚労省の発表によれば、就職件数は昨年度の6万8,321件から7万7,883件に14%増加。また、身体障がい者の就職件数2万8,307件に対し、知的障がい者1万7,649件、精神障がい者2万9,404件だった。精神障がい者の就職件数が身体障がい者を上回ったのわずかに過ぎない。
障がい者雇用の歴史をたどると、1960年「身体障害者雇用促進法」が制定され、76年の法改正で身体障がい者雇用が義務とされた。97年の法改正で知的障がいも義務範囲となり、13年改正で、差別禁止と合理的配慮の義務付けとともに、法定雇用率の算定基礎に精神障害者が追加され(18年4月1日施行)、雇用対象の範囲が拡大されてきた。
つまり、精神障がい者の一般就労は、まだ歴史が浅い。
障がい者雇用には法定雇用率という雇用義務の定めがあり、13年4月からは2%とされ、従業員50名以上の企業なら、1名の雇用義務が生じる。200名の企業なら4名を障がい者を雇用する必要があり、これを守らなければ、不足分1人当たり月5万円の納付金を国に収めなければならない(※)。
そのため、中小企業は近年、必要に迫られ障がい者の人材を探している。ただ、「身体障がい者の方が雇いやすい」というのが企業の本音だ。しかし、身体障がいの求職者は減っている。また精神障がい者の雇用については、中小企業での事例が少なく、情報不足で敬遠しがちだ。そのため、障がい別に雇用が偏るという問題が残っている。
また障がい者雇用を考える企業には、精神障がい者への正確な理解が求められる。そのためには、行政による雇用事例などの情報発信が必要のはずだが、行政の失態が露呈した。
厚労省福岡労働局が12年7月に、精神障がいの一つである「てんかん」を患う就職希望の生徒に主治医の意見書をハローワークに提出するよう、福岡県内の高校に求めていたことが、今年4月末に判明した。職業安定法などに抵触する恐れから、厚労省は同局を指導。5月に福岡労働局長が謝罪するという事態となった。
05年に成立した「障害者自立支援法」(06年全面施行)は、障がい者がその適性に応じて、より力を発揮して働ける社会をめざし、一般就労への移行の促進が進められてきた(同法は12年6月、「障害者総合支援法」という新法に変わり、昨年4月から施行。「制度の谷間」を埋めるために障害者の範囲に難病等が加えられた)。
障害者は推計で、全国に身体393万人、知的74万人、精神320万人の計787万人いるとされている(厚労省調べ)。つまり、相対的に数が多い精神障がい者の雇用を増やし、かつ定着率を上げることが、障がい者雇用の今後のカギとなる。
※納付金制度は、現在常用労働者200名超の未達成事業主が対象(15年4月からは100名超に拡大。激変緩和策あり)。また、雇用率達成事業主には、超過分1人当たり月2万7,000円の雇用調整金が支給される(常用労働者200人以下の中小企業には、報奨金として同2万1,000円)。
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