<細かな部分まで調査>
今年4月、一般市民の情報公開請求により、久米設計の国立競技場耐震改修基本計画の抜粋版がインターネット上に公開された。なぜ全資料を出さなかったのか、という疑問は残るが、それでも今回の建て替え計画以前に、かなり精緻な現状把握の検査をしていることがうかがえる。「2011年3月25日」の日付が入った同抜粋版の内容を詳細に見てみよう。
調査項目は、「建築」「構造」「機械設備」「電気設備」に分かれる。
「建築」では、外壁、屋根、床、天井といった部分、「構造」では、土間コンクリートの部材寸法、鉄筋本数や基礎繋ぎ部材などに関する調査が行なわれた。総合所見では、「外壁など全般的に塗装仕上げ部分や建具周囲のシーリングなど、経年による劣化が目立ってきており、今後改修が必要」とし、「塗装の浮き、コンクリートのひび割れ、エフロレッセンス(※1)などを確認したが、いずれも経年変化と考えられ、部分修繕処置で対応可能」としている。
屋上および観覧席防水は、「今年度に改修工事が行なわれているため問題ない」。内部の事務室や更衣室など諸室は、一部で使用による劣化やコンクリートのひび割れなど確認されたものの、「多くが改修されており問題ない」という。
「構造」については、「土間コンクリート、基礎繋ぎ部材、外部階段のコンクリート・鉄筋調査および耐震診断時に元設計図と現状配筋に違いが見つかった」。コンクリート強度については設計基準強度以上あったものの、「エキスパンションジョイント(※2)のクリアランス(余白)不足、構造体のひび割れなどが散見されたため、今後の補強計画に盛り込む必要がある」。
「機械設備」と「電気設備」については、受水槽、給水ポンプなどの衛生設備は更新されている。空調設備は経年劣化が進みつつあるものの、「おおむね問題ない」としている。
つまり、経年劣化は部分補修すれば十分に使用を継続でき、構造的な問題に関しては、施工に多少の不具合が見られるが、今後の補強で対応できるという調査結果だとわかる。
小規模な改修は恒常的にされているが、実は2010年7月から2011年3月にかけ、大林組が競技場の改修や安全対策などの大規模改修工事を、12億9,822万円で請け負った。それがあったからこそ、東日本大震災でも被害を最小限にくい止めたといわれている。
こうした経緯から、多くの設備はまだ使えるため、日本スポーツ振興センターは今年5月21日締切で、他の競技場への譲渡先を公募。2016年岩手国体が開催される北上陸上競技場を持つ岩手県北上市が、老朽化した観客席を入れ替えるために6,500席を申請するなど、国立競技場は既存の設備を切り売りしている状況だ。
※1 コンクリートやモルタルの表面部分に白い生成物が浮き出る白華現象のこと。
※2 構造物の相互を緊結せずに接続する方法。構造を複数に分けることで、地震による被害を最小限に抑える。
※記事へのご意見はこちら