――日本食は海外で高い評価をされていると聞いています。
井土 カンボジアの市場に足を運んだとき衝撃を受けました。台に足をのせて食材を切る、地面のあちらこちらに食材のカスが散らばっている・・・日本ではまずありえない光景です。日本人の私は当然食欲を失いました。カンボジアの飲食店には、サービスと言えるようなものはありません。食事をする場所の少ないカンボジアには競争がないため、接客をする必要がないからです。もしカンボジアに、世界的にみても高水準な食事やサービスを提供する日本の飲食店が進出してきたら、カンボジアの飲食店は現在のままでは立ち行かなくなるでしょうね。自らが起爆剤となってカンボジアに競争を生みだすことを考えました。競争を生むことは、これからのカンボジアにとってプラスとなるという確信がありましたから。
――カンボジアでのビジョンはすぐに浮かびましたか。
井土 カンボジアに「イオンモールプノンペン」へ出店するという形で、進出することは決めましたが、この段階では具体的な案は何もありませんでした。そこに、カンボジア支援で意気投合したワタミ(株)の渡邉氏から、「カンボジアにワタミを出しませんか」というお話をいただいたんです。
カンボジアにおいて居食屋「和民」のフランチャイズを行なうことを取り決めた開発契約を締結しました。ワタミ(株)は香港・深圳・台湾・上海・シンガポール・広州・マレーシア・フィリピン・韓国と海外に90店舗以上を展開しており、その協力を得られるということは大きなメリットと言えました。合弁会社を設立するために用意した資本金は50万ドル。うち60%をデリズが、残り40%をワタミ(株)が出資する形をとっています。
カンボジアに出店するお店は、日本と同様に居食屋「和民」です。カンボジアでは食事する場所とお酒を飲む場所は別々なので、日本食レストランと言う方がイメージに近いかもしれません。「イオンモールプノンペン」のグランドフロアのオープンカフェゾーンに店舗規模は86 坪142 席、「Watami Japanese Dining」という店名でオープンします。日本の店や文化をまるごとカンボジアにデリバリーしてしまうということですね。
――カンボジア進出に関して社員の反応はどうですか。
井土 恵まれた日本では、その日の食事に困ることなどそうそうありませんよね。昔のように働く動機付けをお金だけに求めることはできない時代です。そのような意味では、お茶碗1杯プロジェクトやカンボジアへの支援を理由にした外部からの問い合わせが増えています。関心の高さは社内でも同じです。自分たちの事業を通してカンボジアの支援ができる、そこに魅力を感じる若者はたくさんいます。「早くカンボジアに行かせてくれ」とせっつく社員もいるくらいですよ。
――今後の展望についてお聞かせください。
井土 今後カンボジアに年1店舗のペースで出店し、最終的にはカンボジアに4店舗ほど出店していきたいと考えています。今はワタミ(株)さんのお力を借りる形ですが、いつかはASEANに対して、独資で何か支援ができたらいいですね。
また、企業としては上場を目指します。創業してすぐ、会社がにっちもさっちも行かなくなったとき、「これで一度会社を畳んでしまったら、将来上場できなくなるなぁ」と考えるくらい自然に、上場はもともとやるもんだという気持ちがありました。何かを得るためには対価が必要だという自分の信条に従って、上場を現実にするためにお酒をやめました。だから、もうやるしかないという感じです。
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