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濱口和久「本気の安保論」

戦時に敵兵を救った「武士道」の奇跡 
濱口和久「本気の安保論」
2014年5月30日 16:25
拓殖大学客員教授 濱口 和久

 前回の連載で、大西瀧治郎中将と武士道については述べたが、今回は世界が称賛した武士道の姿を紹介したい。本来であれば、工藤艦長のような人物は、歴史の教科書に収録してもいいくらいの海軍軍人であると私は思う。

<反日ムードを変えた投稿>
sakura.jpg 平成10(1998)年4月、英国では翌月に予定されている天皇陛下の英国訪問への反対運動が起きていた。その中心となっていたのは、かつて日本軍の捕虜となった退役軍人たちで、捕虜として受けた処遇への恨みが原因であった。

 しかし、元英国海軍中尉サムエル・フォール卿がタイムズ紙に一文を投稿したことによって状況が大きく変わった。そのなかで「元日本軍の捕虜として、私は旧敵となぜ和解することに関心を抱いているのか、説明を申し上げたい」と前置きして、自分自身の体験を語った。

 昭和17(1942)年2月27日、ジャワ島北方のスラバヤ沖で日本艦隊と英米蘭の連合部隊の海戦が始まり、3月1日にスラバヤ沖で撃沈された英海軍の巡洋艦「エクゼター」、駆逐艦「エンカウンター」の乗組員約400名は漂流を続けていたが、翌2日、生存の限界に達したところを日本海軍の駆逐艦「雷(いかづち)」に発見された。

 「エンカウンター」の砲術士官だった私(フォール卿)は、「日本人は非情で野蛮な人種」という先入観を持っていたため、機銃掃射を受けて最期を迎えるものと覚悟した。ところが、駆逐艦「雷」は即座に「救助活動中」の国際信号旗を掲げ、終日を費やし漂流者全員を救助してくれたのだ。

 救助の際、駆逐艦「雷」の手の空いていた乗組員全員がロープや縄ばしご、竹竿を差し出し、何人かの乗組員は、自ら海に飛び込み、立ち泳ぎをしながら、重傷者の体にロープを巻き付けて救助を行なった。艦上では日本海軍の乗組員が、重油と汚物にまみれた英国将兵を嫌悪することなく、両脇から彼らの身体を丁寧に洗い流し、その後、被服、食糧を提供してくれたのである。乗組員は、私たちに支給される官製の被服などが払拭した事を知ると、自主的に私物の下着や履物まで提供してくれた。

 さらに艦長・工藤俊作海軍中佐は、英国海軍士官全員を前甲板に集め、英語で健闘を称え、「本日、貴官らは日本帝国海軍の名誉あるゲストである」とスピーチしたのだった。そして救助した全員に友軍以上の丁重な処遇を施してくれた。

 以上が投稿の要約であるが、その前に昭和61(1986)年、サムエル・フォール卿はこの感動を米海軍協会の機関誌『プロシーディングス』に「Chivalry(武士道)」と言うタイトルで投稿し、米海軍をも驚嘆させている。

<NHKでさえも報道>
 遅まきながらNHKラジオも平成15(2003)年6月に「ロンドン発ワールド・レポート」としてNHKの記者が現地レポートとして、「なんでこんな美談が戦後、日本で報道されなかったか、不思議でならない」と強調して放送を行なっている。

 平成19(2007)年4月19日にはこの救出劇を描いた『敵兵を救助せよ!』惠隆之介著を元にしてフジテレビが『奇跡体験!アンビリバボー』の番組のなかで「ザ・ラストサムライ」として放送し、視聴者からの問い合わせがフジテレビに殺到した。

<命がけの救助>
 そもそも戦闘地域における遭難者の救助は、大変なリスクをともなうものである。下手をすれば潜水艦や飛行機による攻撃を受けて自艦の乗組員もろとも海の藻屑として消えかねない。たとえ遭難者が味方であっても、重傷者を艦上に上げれば、その手当で次の戦闘行動に支障をきたすことになる。そのため大東亜戦争中にこのような危険を冒して味方を救助した艦長でさえ、極めて短時間、艦を停止し、舷側まで泳ぎ着き、かつ艦上に自力で上がれる者だけを救助したという。

 ところが工藤艦長は、自艦の2倍にあたる敵将兵を救助し、重傷者も1人として見捨てなかったのである。しかも艦上にて敵に敬礼し、その健闘を称えるスピーチを英語で行なったのだ。これを武士道といわずして何といおう。

 サムエル・フォール卿は、戦後、外交官として活躍し、定年退職後、平成8(1996)年に自伝『マイ・ラッキー・ライフ』を上梓し、その巻頭に「元帝国海軍中佐工藤俊作に捧げる」と記した。また、英国を始めアジアで講演をした際、工藤艦長の行為を「武士道」として紹介したところ、聴衆は起立し万雷の拍手を以て工藤艦長を称えたという。

<プロフィール>
hamaguti_p.jpg濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。現在は、日本防災士機構認証研修機関の(株)防災士研修センター常務取締役。著書に、『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)、「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版)。11月25日には、夕刊フジに連載中の企画をまとめた『探訪 日本の名城 上-戦国武将と出会う旅』(青林堂)を発売。公式HPはコチラ


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