<中国のカントリーリスクは今も昔も同じである>
――理事長は中国のカントリーリスクは、今も昔も変わっていないと言われます。どういうことでしょうか。
藤原 中国のカントリーリスクは、今も昔も変わっていないと思います。中国進出に成功する企業と成功しない企業は戦略が違うだけに過ぎません。中国のシステムは日本とは違う仕組み(OS)の上で動いていますし、どんなことが起こるか分からないのは当然のことです。しかし、そのようなリスクはタイ政変でも分かるように、どの国に行っても必ずあります。
もし、日本の企業が成功できていないとすれば、上手く行かない戦略をひたすらに採りつづけているからに他なりません。日本の中小企業の海外展開には中国に限らずこのようなことが多いのです。そもそも、国が違うのですから、進出する場合は、リスクを覚悟で進出すべきなのです。
その覚悟を全くせずに、市場が大きそうだからとか、親会社が出て行ったのでとか、ブームだから乗り遅れないようにとか、そのような気持ちだけで出て行っても、決して成功はできません。
私は成功した現地の日系企業の経営者から「進出を考える時に撤退も考えるべきである」という言葉を聞いた時とても驚きました。しかし、良く考えれば。これは、中国だけが特殊でなく、どの国にも共通した大事な感覚だと思います。この点は、台湾企業はもちろん、韓国企業も徹底していると思いますし、欧米企業も別の意味で割り切った見方をしています。
<成功の鍵を握る海外要員と優秀な中国人社員>
――どのような戦略が成功に結びつき易いとお考えになっておられますか。
藤原 企業規模、進出地域、業種などによって大きく異なるので、ケースバイケースで一概に言うことはできません。しかし、私は常に"人材"(雇用)の問題が成功の大きな鍵を握ると考えています。
中小企業は特にそうですが、(1)自社内に優秀な海外要員がいるか?(2)中国で優秀な人材を獲得できるか?の2つが大事です。合せて、成否の80%近くを握るのではないかと考えています。
私は香港駐在時代の約20年前に、華南のある日系企業経営者をインタビューしたことがあります。彼はその時、「中国で藤原はなく、10年、20年と現地に住む覚悟のある日本人獲得が成功の鍵である」と言っていました。
<信頼ある人間のところに人材は集まってくる>
藤原 それは、企業経営に熟練することや工場内を熟知するという意味ではありません。「中国社会を頭でなく体で理解し、直観が働く人間でなければダメだ」という意味なのです。
具体的には、市政府、税関、税務署のスタッフ、幹部との関係"グワンシー"を築き、さらに、工場コミュニティ、居住コミュニティに入っていくことが大事です。その上で、初めて信頼を得ることができます。じつは、ごく最近も同じような企業経営者にインタビューしたのですが、彼は全く同じことを言いました。日本企業にとって成功の秘訣は難しいことではないのかも知れません。それは20年前と変わっていないからです。
この話は、現地での人材獲得に関しても、とても参考になります。現地に10年、20年住んでいる信頼ある人間のところに人材は集まってくるものなのです。もちろん、これが唯一の方法ではありません。欧米外資系のように、年収などで破格な条件を出すやり方もあります。しかし、多くの日本企業は、日本本社との関係でそのような条件提示は難しいと思いますので、これは大きな成功のヒントになります。
<プロフィール>
藤原弘氏(ふじわら・ひろし)
1947年広島県因島市生まれ。70年関西大学法学部卒業後、日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ロンドンに4年、香港に5年(香港センター次長)、大連に1年(事務所長)の海外駐在を経験。ジェトロ時代は中国、東南アジアの奥地まで足を運ぶ熱血の調査マン。
東京中小企業投資育成(株)国際ビジネスセンター所長を経て、09年NPO法人アジアITビジネス研究会理事長に就任。認定NPO雲南聯誼協会経営企画室長他を兼任している。
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